日本人の忘れもの 京都、こころここに

おきざりにしてしまったものがある。いま、日本が、世界が気づきはじめた。『こころ ここに』京都が育んだ文化という「ものさし」が時代に左右されない豊かさを示す。

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京都発「日本人の忘れもの」キャンペーンプロジェクト

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リレーメッセージアーカイブ

2012年 4月掲載

ミセスリビング代表取締役 田中 峰子さん

■「住育」を京都から発信したい!!

 「住育」については、その言葉を知る人も少ないでしょう。しかし、東日本大震災を体験した今、「家族の絆」の大切さが見直されています。

 日本社会の伝統でもある「家族の絆」を取り戻すために、歴史ある文化の中心である京都から「住育」を発信したい、と頑張っています。

 私は、結婚を機に、小学校の教師を辞して建築の世界に入り、家の間取りが母親や家族のストレスになっていることに気づきました。家事・子育て・介護まで、日々の生活を楽しんでほしい! と、主婦目線で家づくりにチャレンジし、40年目になる昨年、「幸せが舞い降りる『住育の家』」を京都から出版しました。

 ふたりの娘と一緒に提案、設計する「住育の家」によって、各地に「幸せ家族」が次々と生まれています。その様子は、心理学や幼児教育の大学教授が関心を寄せて実態をつぶさに調査、今秋に京都で開かれる学会で発表されることになっています。

 「住育こそ日本再生の突破口」という激励を受け、この京都の風として全国に吹かせたい! 次世代の子供たちのために京都から「住育」を発信していきたい! と願っています。

服部和子きもの学院院長 服部 和子さん

■タンスの中の忘れもの

 「はんなりした、ええおべべどすなあ」。ちょっと外に出ると、ご近所の方からよく声をかけていただけた。それは魔法のように私の心を温めた。誉(ほ)められたのはきものだというのに、私本人まで誉められたような気がしたのだ。

 けれど、今にして感じるのは、ご近所の方が誉めてくださったのは、きものや私だけではないということ。

 きもの1枚には染めや織りの卓越した技が凝縮されている。そして洋装とちがい、きものは「洗いはり」、つまり、きものを解き仕立することで寸法直しをすることができる。1枚のきものが、代を超えて継承されていくことが、わずか数十年前まではあたりまえのことだった。

 嫁入りする娘に持たせるきものは、母からの贈りものであり、そしてそれはまた子へと贈られてゆく宝物。

 そう、1枚のきものを誉める、ということは、きものを通してつながってゆく時の流れへの敬意の表れでもある。それは今となってはこの上なく贅沢(ぜいたく)で豊かなこと。

 タンスに大切なきものを忘れてはったら、それこそ、もったいない。冥加(みょうが)に悪おすえ。

女優 星 由里子さん

■今 思う事

 私が映画デビューさせて頂いた折、京都の撮影所で時代劇の銀幕を華やかに飾っておられた大スター、長谷川一夫さん、山田五十鈴さんたちは私にとってはすごく眩(まぶ)しい存在でした。いつか私もと思いながら…。時代の流れは早くこの時代の素晴らしい映画も残念ですが少し忘れられて来ています。

 話は変わりますが私の義母は京都生まれの93歳です。この折の映画はよく見ていたそうです。時代が移り映画よりテレビ、パソコン、携帯電話が主流の昨今でも有料放送の時代劇映画は毎日見ています。家庭でも仏様の事、お料理の事、掃除洗濯の事、ご近所様とのお付き合い、朝起きる時、夜寝る時、それぞれに昔ながらの流儀を今の時代に合わせながら毎日を過ごしているように見えます。良い事は引き継ぎ、新しい事にも挑戦し自分が少しでも納得出来るようにしているようです。

 私も日々義母の良い教えを受け入れ自分の人生に生かそうと奮闘しています。豊かな人生とは古き良き習慣を守りながら自分に合う新しいものを吸収し後のために少しでも残せればと、今思っています。

医療法人財団 康生会武田病院名誉院長 武田 道子さん

■心と体の健康は日本食で

 世界一の長寿国日本、戦後の日本を経済大国にのし上げたのは、すばらしい忍耐力と女性の力だと思いますが、その陰に大事なものを忘れて来たのではないでしょうか。

 それは、心の問題だと思います。義理、人情、隣人愛などです。「トントントンカラリと隣組」という歌をご存じの方がどれだけ居られるでしょうか。今は「隣は何をする人ぞ」の時代になりました。そして家族も核家族化してまいりました。

 せめて3食バランスのよい食事をとるだけでも心が豊かになり、イライラが無くなります。食生活と体、心とは密接な関係があります。バランスのよい食生活を腹八分目でいただきたいものです。

 元来、日本食は小皿主義の副食といった理想的なお食事でした。よくかむということは脳の活性化につながりますし、米飯をいただけば亜鉛不足も解消されます。京料理に代表される日本古来の食事こそ、大切な遺産だと思います。

 災害で若者のボランティア精神が芽生えたことは“絆”に連なる人情、隣人愛、国土愛へと展開することになり、心の問題が少しずつ解消されていく結果になればよいことだと思います。

学校法人大和学園名誉学園長 田中田鶴子さん

■子育て四カ条

(一)あいさつは明るく笑顔で

(二)返事は大きくはっきりと

(三)人の嫌がることはしない

(四)神仏(ご先祖)を大切に

 これは、私の子育て四カ条です。と申しましても、私が子育てをしていたのは半世紀以上前のことですから、時代がかったことと笑われるかもしれませんね。

 近ごろは、ウェブや多機能携帯端末によって、時や場所を選ばずコミュニケーションが可能で、便利な時代になりました。半面、胸襟を開いて、言葉やしぐさで礼節を交わす温もりのあるあいさつが忘れられているようで、寂しい気がいたします。

 学園では、古くからあらゆる年齢層に好印象をもって受け入れられる身だしなみ、立ち居振る舞い、あいさつなど、礼儀や規範教育に力を注いできました。人心の荒廃が危惧(きぐ)される現代社会だからこそ、専門知識や技能とともに、正しい態度、姿勢など横断的能力の醸成が大切と感じます。

 ホスピタリティー精神と人間的な魅力を兼ね備えた人の存在が社会を豊かに明るくします。気持ちのこもった「あいさつ」こそが、おもてなしの原点ではないでしょうか。昔は子育て四カ条でしたが、現代社会には「大人に必要な四カ条」と言えるかも知れません。