伏見の水が育んだふくよかな味わい
名だたる名水がわき、酒造が軒を連ねる伏見界隈。伏見に湧く名水の一つ、白菊水の湧く地に創業したのが山本本家である。山本本家ではこの水を酒造りに使うほか、一般の人たちも汲めるように無料開放している。
「かつて『伏水』と表記していたように、伏見には良質の水が豊富に湧き出し、江戸初期から酒造りが盛んだったんです。当時の酒どころと言えば、灘と伏見。伏見の水は灘に比べてミネラル分の少ない軟水で、醸し出される酒は口当たりのやさしい『女酒』と言われています。本来は京都のほうが酒造の歴史は長いんですが、輸送を海運に頼っていた明治時代までは灘の酒が『下り酒』として江戸まで行っていました。東海道本線が開通してから、伏見の酒のふくよかな味わいが全国へと広まり、旨さが評価されるようになったんですよ」と11代目山本源兵衛氏。山本本家が伏見での酒造にこだわるのも、水が酒を決めるからである。酒の味は「一に水、二に技、三に米」である。
大正時代に樽詰めから瓶詰めに変わり、さらに電気の普及で精米技術や温度管理技術が挙がって酒の味も格段に向上したが、酒造技術の基本は昔から変わらない。山本本家では、櫂(かい)入れなどの蔵人の力仕事を不眠不休で行わず、機械で安定稼働させているが、その日の気温や米の質によって仕込みの加減を微妙に変えるような技は、杜氏(とうじ)の技術を引き継いでいる。技術研究にも尽力し、バイオテクノロジーを駆使した純粋酵母仕込みの開発で科学界の受賞歴もある山本本家だが、現代も技術者の経験と勘、そして素材を大切にする姿勢を貫く。