海と山の良質な素材の融合
鞍馬の集落を貫く旧街道は日本海側のまちと都を結び、かつてはさまざまな物資が行き交った。「北前船で蝦夷から運ばれた昆布もその一つ。山では山菜が採れ、中でも山椒の香りの良さは日本一と讃えられてきました。身近にある良質素材が持つ旨さを、融合させて育まれた里の味が、京つくだ煮です」。そう語るのは、当代の辻井浩志氏である。
今も昔も材料は変わらない。つくだ煮には最適である、炊いても煮くずれしない天然利尻昆布と厳選した調味料。そして、鞍馬をはじめ奈良や和歌山などの山間地から取り寄せた山椒の葉と実だ。製法も変わらず、丹念に時間をかけて炊き上げられる。
「荒切りにした昆布を、つくだ煮に合うよう濃口や淡口など3種をブレンドした醤油で洗います。表面についた小砂などを取り除いたら昆布を引き上げ、この醤油の上澄みを漉し取って小砂を捨てます。昆布を水洗いしないのは、水分で旨みまで抜けてしまうから。醤油の上澄みを取るのも、昆布から溶け出した旨みを損なわないようにするためです。山椒も、初夏に採れるみずみずしい香りの実と、真夏に完熟した実の辛い皮を合わせて風味にメリハリをつけています」と、辻井氏は言う。