京佃煮 くらま辻井

KYOTSUKUDANI KURAMATSUJII

山菜を丹念に炊き上げ、食膳に山里の景色をもたらす。

代表取締役 辻井浩志

海と山の良質な素材の融合

 鞍馬の集落を貫く旧街道は日本海側のまちと都を結び、かつてはさまざまな物資が行き交った。「北前船で蝦夷から運ばれた昆布もその一つ。山では山菜が採れ、中でも山椒の香りの良さは日本一と讃えられてきました。身近にある良質素材が持つ旨さを、融合させて育まれた里の味が、京つくだ煮です」。そう語るのは、当代の辻井浩志氏である。

 今も昔も材料は変わらない。つくだ煮には最適である、炊いても煮くずれしない天然利尻昆布と厳選した調味料。そして、鞍馬をはじめ奈良や和歌山などの山間地から取り寄せた山椒の葉と実だ。製法も変わらず、丹念に時間をかけて炊き上げられる。

 「荒切りにした昆布を、つくだ煮に合うよう濃口や淡口など3種をブレンドした醤油で洗います。表面についた小砂などを取り除いたら昆布を引き上げ、この醤油の上澄みを漉し取って小砂を捨てます。昆布を水洗いしないのは、水分で旨みまで抜けてしまうから。醤油の上澄みを取るのも、昆布から溶け出した旨みを損なわないようにするためです。山椒も、初夏に採れるみずみずしい香りの実と、真夏に完熟した実の辛い皮を合わせて風味にメリハリをつけています」と、辻井氏は言う。

職人が生み出す四季を感じる味わい

 こうして下ごしらえした昆布と醤油の上澄みを大釜に移し、みりんなどと山椒の実を加え、じっくり火にかける。辻井氏は「一度に炊くのは40キロ。これぐらいの量でないと、ふくよかな美味が出ません。早朝に釜をかければ、時おり櫂(かい)で中身を混ぜながら、煮え具合をたしかめて火加減を調節します」と語る。けっして焦らず、慎重に、職人の目と手は休まない。

 一連の作業が終わると、時計は昼過ぎを指す。ここで山椒の葉を入れて火を落とし、釜の蓋を閉じて2時間ほど蒸らす。昆布が冷めれば微細に刻みこみ、旨みの出た煮汁を回しかける。煮てから刻み、さらに煮汁をかけることによって、山椒の香りや辛さが昆布の旨みと絶妙に混ざり合う。

 ほぼ一日がかりの仕事で完成した山椒と昆布のつくだ煮が、鞍馬銘産『木の芽煮(きのめだき)』である。辻井氏は変わらぬ製法を受け継ぎながら、現代人の口に合うよう軽やかな味わいに仕上げる。一方で、京都ならではの食材である生麩をつくだ煮にした『雲珠桜(うすざくら)』や鮎の山椒煮など新しい品も生み出し、ふきのとうや松茸など旬食材を使った季節の限定品も考案する。山里伝統の味わいは、四季を感じさせてくれる。

くらま辻井

〒601-1111 京都市左京区鞍馬本町447
Tel.075-741-1121

◉鞍馬では林業や炭焼きを営む家が多く、雪深い冬には山で採れた山菜を煮て保存する習慣があった。里には日本海側と都を結ぶ街道が通り、山の幸と食の伝統、北前船で運ばれた昆布とが融合して生まれたのが京つくだ煮である。炭問屋であった「くらま辻井」も自家製のつくだ煮が評判となり、先々代より業とするようになった。古来の製法を守り続け、近郊の山の幸と吟味した素材や調味料をふんだんに使った銘産品を数多く生み出している。

京佃煮 くらま辻井 本店内観の写真

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