ものづくりの姿勢とお客様への気遣い
祇園には有名企業の社長がこぞって訪れる。かつて社長たちはお茶屋遊びの際、奥様への土産に香鳥屋の草履や袋物を求めたそうだ。数々の逸品は目の肥えた人に愛され、京都を訪れる女優も香鳥屋で買い物を楽しむという。
時代とともに主力は草履から袋物、バッグへと変遷してきたが、変わらず貫かれているのはものづくりの姿勢とお客様への気遣いである。「良い品を永く使っていただきたいというのがモットーです。そのため最高級の素材を厳選し、丁寧に手作りしています。メンテナンスも承っているので、一生ものとして次世代へ引き継いでいただけます」と、橋本昌治氏は言う。
店舗に並ぶ爬虫類やクロコダイルなどの製品は、素材自体が希少なため仕入れが難しい。また一枚一枚模様や風合いが異なるため、個々の特徴が活きるデザインを考え、それぞれに適した裁断や縫製・成形を行う。口金や付属金具など細かいパーツまでオリジナルにこだわり、見えない部分にも手を抜かない。これらは分業制で、100人以上の職人が自らの得意を発揮して手作りするのだ。手仕事の最たるものは、昭和天皇皇后陛下の御還暦品として献納されたビーズバッグである。地模様にビーズを刺していくのは非常に細かい作業で、失敗するとやり直しがきかない。熟練職人が小さいバッグを刺すのでも1ヵ月はかかるという。以上の理由から香鳥屋の製品はどうしても高価になるが、二つと同じものがないので「画一的なブランド品は要らない、私だけのバッグが欲しい」という上質なお客様に喜ばれるそうだ。