香老舗 松榮堂

Shoyeido Incense co.

香りの楽しさ、奥深さの体感で
日本人が受け継ぐ生活文化を伝える

十二代目 代表取締役社長 畑正高

伝統を継承し多彩な香りを届ける

 香の歴史は、日本には飛鳥時代、仏教とともに伝来したという。平安時代には儀礼に使われるほか、室内や装束に焚き染めるなどで香りを楽しんできた。しかし、香の原料となる香木や各種香料などはほとんど海外産で、中には非常に貴重なものもある。これら希少な原料をいかに無駄なく賢く使うかが、香舗の腕の見せ所である。

 また、日本にははっきりした季節があり、四季の割合も均等だ。例えば春の沈丁花、夏の梔子(くちなし)、秋の金木犀などと季節ごとに香る自然があり、嗅げば「あぁ春の香りだ」と心に染み入る。そんな季節を材料の配合でいかに感じさせられるか、イメージを香りとして提供するのは、たいへん格調高い生活文化なのだ。

 「日本人が長く受け継いできた歴史の中にずっと流れている、良きものを認めて愛でる気持ちに裏打ちされた、クオリティを大切にしています」と、松榮堂の十二代目当主、畑正高氏はいう。現在まで香づくりひとすじだが、古典的な香りから新しい素材を組み合わせた斬新な香り、洋風の生活にも似合うモダンな香りまで、また、焚く香をはじめ匂い袋、文香などそのまま使用するものまで幅広い。さらに近年は香りのインクを塗布した和紙をモビールにしたり、籠に入れて下げるなどインテリアとしても楽しめるアイテムが増えている。伝統の技と心を継承しつつ先進を柔軟に取り入れ、多彩な香りを届けているのだ。

香りの文化を次世代へ受け継ぐ

 そして香りを楽しむ文化の伝承にも力を入れている。例えば茶の湯や聞香などの伝統文化を体験できる「お香とお茶の会」を開催。香りに興味を持ち、香の良さを見直す機会をつくるために、『香・大賞』というエッセイコンテストを主催している。さらには講演やワークショップなど、様々な形で活動を展開している。

 京都本店2階にある香房では、お線香の製造工程が見学できる。そして2018年には、香りとの出会いの場、日本の香文化の情報発信拠点として薫習館(くんじゅうかん)を開設し、無料公開している。ここではお線香が出来るまでの工程を模型で紹介し、香が多くの原料を組み合わせて完成することが学べるほか、香りの元になる材料を見て嗅いで体感できる。世に芳香剤はあふれているが、本物の香の原料を嗅げる機会はほとんどないので、見学に訪れた小学生は様々な香りに歓声を上げるという。老若男女を問わず、嗅ぐうちに香りの素晴らしさを体感しているのだ。

 「香りはデジタル化できません。精神性の高いものであり、自ら感じないとその良さを実感できない。だからこそ、いろんな形で香りを体験してもらえるようにしています」と、畑氏。材料の源を考えて環境保全活動にも熱心であり、これらすべてが香りを楽しむ文化を広め、親しんでもらい次世代へと受け継いでいくための尽力である。

香老舗 松榮堂

〒604-0857 京都市中京区烏丸通二条上ル東側
Tel.075-212-5590

◉宝永年間に初代畑六左衞門守吉が丹波篠山から上洛し、漢方街として知られる二条に「笹屋」の暖簾を掲げたのが始まり。京都御所の主水職を勤めた3代目のころから香を主に扱うようになり、屋号を「松榮堂」と改める。以来、様々な香を届けて300余年になる。明治30(1897)年には円錐形の「香水香」を開発販売し、日本への関心が高まっていたアメリカへ日本初の香輸出に成功。伝統の上に新しさを加えた香りの文化を、多彩な形で発信し続けている。

香老舗 松榮堂 本社外観の写真

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