伝統を継承し多彩な香りを届ける
香の歴史は、日本には飛鳥時代、仏教とともに伝来したという。平安時代には儀礼に使われるほか、室内や装束に焚き染めるなどで香りを楽しんできた。しかし、香の原料となる香木や各種香料などはほとんど海外産で、中には非常に貴重なものもある。これら希少な原料をいかに無駄なく賢く使うかが、香舗の腕の見せ所である。
また、日本にははっきりした季節があり、四季の割合も均等だ。例えば春の沈丁花、夏の梔子(くちなし)、秋の金木犀などと季節ごとに香る自然があり、嗅げば「あぁ春の香りだ」と心に染み入る。そんな季節を材料の配合でいかに感じさせられるか、イメージを香りとして提供するのは、たいへん格調高い生活文化なのだ。
「日本人が長く受け継いできた歴史の中にずっと流れている、良きものを認めて愛でる気持ちに裏打ちされた、クオリティを大切にしています」と、松榮堂の十二代目当主、畑正高氏はいう。現在まで香づくりひとすじだが、古典的な香りから新しい素材を組み合わせた斬新な香り、洋風の生活にも似合うモダンな香りまで、また、焚く香をはじめ匂い袋、文香などそのまま使用するものまで幅広い。さらに近年は香りのインクを塗布した和紙をモビールにしたり、籠に入れて下げるなどインテリアとしても楽しめるアイテムが増えている。伝統の技と心を継承しつつ先進を柔軟に取り入れ、多彩な香りを届けているのだ。