賛同企業代表者 文化人 対談シリーズ
経済面コラム

共に変える、共に創る、未来へ

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- 2023元日 文化人メッセージ -

深見まどか

日本の文化や精神性を大切に
音を通して幸せを運ぶ

深見まどか
ピアニスト

昨年11月、友人のロシア人音楽家の演奏会に立ち会った時のこと。後半彼の親友であるウクライナ人の音楽家が登壇し、一緒に演奏を始めた。今、最も緊張状態にある国同士の音楽家が、息を合わせて演奏する様子は、演奏に感動する次元を超え、胸を打つものがあった。彼らは音楽を通してつながり、互いに励まし合っていたのだ。
コロナ禍で世界が危機に直面し、自国優先の風潮が高まった時、音楽は、言葉の通じない者同士をつなげる癒しのツールとして確かに存在していた。「不要不急」がささやかれ、文化芸術の存在意義について悩んだが、精神の栄養のために音楽は不可欠だった。
私が演奏家として舞台に立つ時、考えることは、聴衆に音を通して幸せを運ぶこと。私も、音楽で心を豊かにしてもらっているから。心が動くと、幸せを感じる。幾度となく、音楽に感動と幸せをもらってきた。高校時代、スランプに陥った時も、尊敬するフランス人ピアニストの演奏に助けられた。
パリに住み始めて14年、西欧、東欧、アジア諸国やアメリカなどいろいろな国で演奏する機会に恵まれた。演奏会が終わった後の聴衆の笑顔、子どもたちの目の輝きから、思いが通じたと感じることができた。言葉は通じなくても、音楽でつながっている、と目頭が熱くなる瞬間に何度も立ち会った。
海外の友人たちと話をしていてすごいと思うことがある。皆、自国の良いところを堂々と自信を持って紹介してくれる。しかし、われわれ日本人となると、割と悪いところが先に出てしまう。
では、日本の音楽教育が世界的に見てどうかというと、往々にして日本人は真面目でよく練習し、基礎もしっかりしているので、何色にでも変われる可能性を秘めている。他の国と比べて悲観的になる必要などまったくない。
「もっと日本を誇りに思おう」。コロナ禍で自分を見つめる時間ができた時、そう思った。友人たちは、愛国心を持っている。翻って、私自身はどうだったか。日本の品格や歴史に関する書物に触れ、改めて立ち返る。邦人作品も積極的に弾いていく。そう思えた。
フランスで暮らす中で、日本の良さに気づかされることも多い。京都で育まれた日本の伝統文化、他人を重んじる思いやりの精神など、日本には世界に誇れるものが数えきれないほどある。
日本人の忘れもの―郷土愛を大切にし、自国に対する自信を持つこと。日本の歴史や文化を知る、それだけでも良いと思う。これからも、日本の文化や精神性を大切に、そして、世界共通語である音楽を通して、世界の人々を笑顔にしていきたいと思う。

◉ふかみ・まどか
京都市生まれ。聖母学院小・中出身。東京芸術大を経てパリ国立高等音楽院修士課程を首席修了。青山音楽賞新人賞、ロンティボー国際コンクールなど多数入賞。NHK-Eテレ、NHK-FM、ラジオ・フランスなどメディア出演多数。大阪教育大ピアノ科非常勤講師も務め、日仏両国で活躍中。1月8日「関西フィル城陽ニューイヤーコンサート」(文化パルク城陽)に出演。

©Sumiyo IDA