賛同企業代表者 文化人 対談シリーズ
経済面コラム

共に変える、共に創る、未来へ

Let’s change our behavior. And create our future.

- 2023元日 文化人メッセージ -

樋口昌孝

旬を知り、
地産地消のおいしい京野菜を

樋口昌孝
京野菜農家

「和食」がユネスコ(国連教育科学文化機関)の無形文化遺産に登録されて今年で10年。コロナ禍により、観光も外食産業も大きな打撃を受けたが、緩和に伴い本物の京料理を求める人々が今、京都に押し寄せている。海から遠い京都では、昔から京野菜は京料理のメイン素材だった。夏はスッと箸の通る賀茂ナスの田楽、冬はほっこり炊いた九条(鷹峯)ネギ…京の四季が味に宿る。
京都・鷹峯で400年続く農家の14代目として、60歳で早世した父の跡を28歳で継いで38年、洛北・鷹峯を拠点に旬野菜作りに突っ走ってきた。1年365日、最優先は天気と“畑の都合”だ。現在は鷹峯トウガラシ、聖護院カブラ、鷹峯ネギなどのブランド京野菜をはじめ、年間約40種の野菜を栽培、京都の料亭からの注文にもお応えしている。
同時に、もう一つの大切なお得意先が地元の食卓。昔から京都の近郊農家では「振り売り」と言って、栽培した野菜を大八車に積んで(今は軽トラックだが)、農家の嫁が売りに歩く慣習があった。母は80歳を過ぎても「振り売りが元気の源」と、夏ならトマトや鷹峯トウガラシ、冬なら大根や鷹峯ネギなど旬の野菜を積んでお得意さまに届けていた。家庭の食卓で求められるのは、ブランドではない。その野菜が、安心で新鮮でそしておいしいかどうか。その要望に応えるために日々、研究・努力を重ねることが、私の喜びであり自負でもある。
しかし、そんな京野菜にも存亡の危機があった。1985(昭和60)年前後のこと。種苗会社の種に比べ、味は良いが形も不ぞろいで耐病性も弱い京野菜は、作りにくい上に採算性も低いと、生産する農家が減っていった。
待ったをかけたのが、京都の老舗料理店の若旦那でつくる「京都料理芽生会」と農家の若手だった。「復活させよう、京の伝統野菜」をテーマに、産官学を巻き込んでさまざまな運動を展開、私もメンバーの1人として参加し、料理をする方の思いなど多くのことを学び、意見も言わせていただいた。
私が何より大切にしているのは、「旬」と「地産地消」。京の地で作ったものを、京都の人に食べてほしい。京野菜を楽しむ食事会「旬菜樋口会」もその一つだが、私が特に旬の京野菜のおいしさを知ってほしいのは、未来を担う子どもたち。食べる子どもの笑顔も見たい。農園で収穫祭をしたり、地域の小学生を受け入れて食育講習会を開いたりするのもそのためだ。
「一人でも野菜嫌いの子をなくす!」。これが毎年、私が年頭に掲げる目標だ。

◉ひぐち・まさたか
1956年生まれ。近畿大農学部卒業後、14代続く京野菜農家を継ぎ、「本物の京野菜」を守るために情熱を注ぐ。京都府が認定する「きょうと食いく先生」を務め、子どもたちに食農体験指導も行う。京の伝統野菜種子保存委託農家(京都市)。2008年京野菜マイスター認定。16年第1回和食文化京都大賞受賞。