賛同企業代表者 文化人 対談シリーズ
経済面コラム

共に変える、共に創る、未来へ

Let’s change our behavior. And create our future.

- 2023元日 文化人メッセージ -

十代西村彦兵衛

込められた願いや祈り
日本文化のステキさ

十代西村彦兵衛
象彦 15代当主

漆器に携わって40年近くたちました。20代後半まで私が勤務していた職場では、長さの単位が「cm」「inch」で、製品名、扱う素材などはほとんど全て英字のものでした。
それが漆器の長さは尺寸、製品名、材料や製造工程を表す言葉が読めないばかりか製品がどう使われるものかも分からない状態でした。
製品一つ一つの名を覚え、どんな時にどのように使われるものかを調べたり、教えを乞いながら知識を蓄えてきました。
お正月用の屠蘇器を例に挙げると、屠蘇とは何か、なぜお正月にいただくのか、どのようにしていただくのかといったことを知り、その上で形状や蒔絵の図柄のアイデアを出して製品化していきます。
全ての人が歳を重ねる元日に、一つ歳を重ねて新しい年が無病息災に過ごせることを願って貴重な薬である屠蘇をいただく。屠蘇器には長寿を願い鶴亀の蒔絵を施す。また寒い中でも強くたくましく美しい松竹梅の蒔絵を描いて強く美しい人になってほしいと願う。
こんな温かい心情が屠蘇をいただく背景にあることを知って、私はお正月には必ずこうした心を込めて屠蘇をいただこうと思いました。
お茶道具を製作する時も、席主の趣向、他の道具との取り合わせ、季節などを考えながらそこにどのような心情を添えたら〝ステキ〟だろうかと思いを巡らせます。
過去いくつかの海外ブランドとコラボレーション作品を製作してきましたが、企画のテーマを一緒に考えている際に、海外の方が心ひかれたことは、蒔絵の美しさだけでなく蒔絵の題材に心が添えられていることでした。企画中に見ていただいたのですが、蒔絵の椀の5客が絵変わりになっていて、その図柄がそろうことで一つの物語や心情が表現されていたり、蓋表と蓋裏の図柄を見ることでその図柄に込められたストーリーに心を動かされるといった日本独自の表現です。
日本ではもてなしをする時、どのような気持ちを伝えたいかを考えて図柄や道具を考えます。贈り物を選ぶ時にもどのような気持ちを込めたいかによって品選びをします。
こうした心配りこそ世界に誇れる日本の文化であることを痛感しました。
私の知見はまだ浅いので知らないことも多いのですが、知れば知るほど日本の風習や儀礼には心温まる願いや祈りに近い心情が込められていることに、日本の文化のステキさと日本人であることに自負を覚えるようになりました。

◉にしむら・ひこべえ
1961年生まれ。岡山大法学部卒。伝統的な漆器を企画する傍ら99年より海外市場調査を開始し、「VACHERON CONSTANTIN」「Montegrappa」など海外のラグジュアリーブランドとのコラボレーション作品を発表。2009年代表取締役に就任。21年十代西村彦兵衛を襲名。