賛同企業代表者 文化人 対談シリーズ
経済面コラム

共に変える、共に創る、未来へ

Let’s change our behavior. And create our future.

- 2023元日 文化人メッセージ -

ナンミャケー カイン

自由に発言できる幸せ
取り戻すため、祈りを捧げる

ナンミャケー カイン
開発経済学者

2年前の元旦、新型コロナウイルス感染症の状況が良くなったらミャンマーに一時帰国でもしようと考えていた。1か月後、2021年2月1日、思わぬ出来事で人生の転換点を迎えることになった。ミャンマーの国軍が時の大統領からアウンサンスーチー氏まで武力で拘束し、クーデターを起こした。
数日後、都市部をはじめミャンマー各地で若者を中心としたデモが起きた。1988年の民主化運動とクーデターを経験した身としては、「軍の発砲は今か、今か」とハラハラ、ドキドキしながら見守った。当初、私は知人の若者に対して、「デモに行かない方がいいよ、危ないから」と引き留めていたが、制止も聞かず「デモ(プロテスト)に行ってきます」と平気で出掛けるような学生もいた。私はただただ心配でたまらなかった。
クーデターから9日が経過した日、ネピドーで警察が19歳の女性の頭を狙って銃撃した。その女性は2月19日に帰らぬ人となった。クーデター後、初めての犠牲者だ。このことがミャンマー全国に知れ渡り、若者がさらにデモに参加するようになった。「2021年2月22日(2が五つの日)」にミャンマー全国で100万人以上が参加したとされるゼネストが行われた。大規模なデモに発展しても暴動一つなく、平和的に意思表明をしていた。26日深夜、ミャンマー国代表の国連大使が「国民側に立つ、軍への非難声明」を国連の会合でスピーチし、拍手が沸き上がった。国内外でも反響が大きかったが、この日を境にして、軍の国民への弾圧が一層厳しくなった。弾圧対象はデモ隊に限らず、一般市民にも向けられるようになった。
ビルマ政治囚支援協会(AAPP)の発表(22年12月9日)では、軍の蛮行によって2566人が亡くなり、1万6543人が不当に拘束されている。今、ミャンマーの地方では、軍の空爆や放火によって家をなくし、軍の弾圧から逃げて山や森で暮らさなければならない国内避難民が134万人以上に上っているといわれる(国連UNHCR協会ホームページ)。
在日ミャンマー人は祖国での出来事に心を痛め、軍が居座っている限り本国に帰らない覚悟で国内避難民のため、街頭募金活動を毎週末行っている。
ミャンマーでは、12年に検閲制度が撤廃され、自由に発信できるようになった。わずか10年間で、再び軍は武器と恐怖によって、国民の目や耳や口をふさぐ事態に陥った。ミャンマー国内にいる人たちの代わりに一コマ漫画やイラストで情勢を伝える活動「WART展」を今後も続けていきたい。

◉ナン ミャ ケー カイン
ミャンマー出身。京都精華大特任准教授。33年前に来日し、ミャンマーと日本、両方を母国と捉えている。立命館大で博士(国際関係学)取得後、東京外国語大で外国人特別研究員。2005年より関東圏のさまざまな大学で非常勤講師として教える傍ら、通訳・翻訳も多数こなす。21年より現職。現在、在日ミャンマー人を研究している。

「自由がない世界」 殿垣内里奈 (WART提供)