賛同企業代表者 文化人 対談シリーズ
経済面コラム

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- 2023元日 文化人メッセージ -

坂本英房

「野性への窓」―動物園が目指すもの

坂本英房
京都市動物園 園長

京都市動物園は市民からの寄付金を基に1903(明治36)年に開園し、今年4月に120周年を迎えます。長い歴史の中で、その役割は時代とともに変化をしてきました。所属が京都市の学務課であったことから当初は社会教育施設としての位置付けであったことがうかがえます。動物園には、「教育・環境教育」「レクリエーション」「種の保存」「調査・研究」という四つの役割があるとされていますが、娯楽施設としての役割を求められていた時期も長らくありました。しかし、近年では保全や研究という役割に力を入れています。
動物園は、そこで暮らす動物を通して、野生の姿を知ってもらう「野生への窓」 。そのためには、動物福祉に配慮して動物が心身ともに健康で幸せな状態を保ち、野生本来の行動を引き出す必要があります。私たちは、2020年に「動物福祉に関する指針」を独自に定め、飼育している動物が幸せに暮らせるように飼育担当者と獣医師、研究員という立場が違う職員が共同して動物福祉の向上に努めています。例えば、木の上で暮らす動物であれば、空間移動ができるように樹木に見立てた構造物を設置するなどの工夫をして、その前後の行動などを比較し科学的に評価しています。こうした動物園全体での動物福祉向上のための体制整備が評価され、21年NPO法人「市民ZOOネットワーク」から表彰されました。
地球規模での環境破壊が進む中、動物園は野生動物の保全に積極的に関わり貢献しようと取り組んでいます。京都市動物園は環境省と日本動物園水族館協会が協定を結んで進めている「ツシマヤマネコ保護増殖事業」に12年から繁殖拠点の一つとして加わり、展示を通して来園者に絶滅の恐れが高いツシマヤマネコの現状や現地での保全に向けた取り組み、飼育下繁殖を進めて将来の野生復帰を目指す計画などを伝えるとともに非公開繁殖施設で繁殖に取り組んでいます。17年に2頭が生まれ1頭は移動先の動物園で父親となりました。
動物福祉の向上と野生動物の保全を支えているのは研究です。08年の京都大との連携をきっかけに、13年に動物園内の研究・教育を統括する組織「生き物・学び・研究センター」を設置しました。そして18年には文部科学大臣から日本動物園水族館協会に加盟する動物園では唯一の「学術研究機関」としての指定を受け、科学研究費補助金(科研費)の申請が可能となり、所属する研究員が取得した科研費を活用して比較認知科学、動物福祉科学、ゲノム科学など多様な研究を行い、飼育動物の幸せや野生動物の保全につなげています。「野生への窓」を見に、ぜひ京都市動物園にお越しください。

◉さかもと・ひでふさ
1960年福岡県生まれ。獣医師、学芸員。山口大大学院農学研究科獣医学専攻修了。87年から福岡市役所での勤務を経て、88年京都市動物園に勤務。最初の6年間は動物飼育に、その後は獣医師として臨床に携わるとともに学芸員として教育普及活動にも従事。2020年から現職。