賛同企業代表者 文化人 対談シリーズ
経済面コラム

共に変える、共に創る、未来へ

Let’s change our behavior. And create our future.

- 2023元日 文化人メッセージ -

小嶋雄嗣

時の流れに
身を任せてゆくのも、豊かさ

小嶋雄嗣
東映京都撮影所長

1月を迎えるとわが家では恒例のみその仕込みが始まる。平日は私の仕事があるので、週末に行うのだ。前日から水に浸した大豆を妻が朝から半日煮込んでやわらかくし、それを私が餅つき機のみそ羽根ですりつぶす。この餅つき機は、もう長いことみそ作りにしか利用していないが、この時ばかりは重宝する。すりつぶした豆から湯気と共に立ち上る香りはまた格別だ。煮汁で伸ばしながら、こうじと塩をよく混ぜる。空気を抜きながら丸めたみそ玉を樽に向けて「エイ」とばかりにたたきつける。これがなんとも快感だ。
わが家の仕込みはだいたい3週かけて行う。後は、夏を越して冬が来るのを待つばかり。とはいえ、カビ対策は怠れない。仕込んだみそは、どうしてもカビが生えてきてしまう。これも、発酵の副産物なのだ。表面に生えているカビをきれいに取り除けば大丈夫。
わが家では、毎日朝食はご飯にみそ汁。わが家の出汁は、かつお節と昆布から取っている。かつお節を削るのは毎朝の私の役目。初めはがっしりとしたかつお節が、日々小さくなってゆくのも何やらいとおしくなってくる。自家製のみそに削りたてのかつお節の香りが毎朝ささやかな幸福感をもたらしてくれる。
朝ご飯といえば、漬物たちも欠かせない。
6月になるとそろそろ梅を漬ける時期。完熟梅の到着が待ち遠しくなってくる。昨年は東京から京都への引っ越しの時期と重なったため梅を漬けることができなかった。今年こそはと今からワクワクしている。梅が届き、段ボールを開けた時の香りもなかなか官能的である。一つ一つヘタを取ってゆく作業も地味ながら楽しいものである。わが家の梅干しは塩分12%。これが〝カビない〟ギリギリの塩分の量なのだ(昔からの梅干しは、20%くらいが標準)。
1週間程度漬けておくと、きれいな梅酢が上がってくる。この梅酢に新ショウガを漬け込めば自家製紅しょうがの出来上がり。うれしい副産物である。
他にもキュウリや大根やカブのぬか漬けも欠かせないし、冬場なら、妻が漬けた白菜漬けも食卓に上る。みそも梅干しも漬物も「塩」の力に感服する。
今の世の中、お手軽においしい物が食べられる。はやりの「〝コスパ〟や〝タイパ〟」というやつなのだろう。でも、みそや梅がゆっくりと発酵してゆく時間の流れに身を任せてゆくのも、豊かさだと思っている。
自分たちで作ったものを自分で作った器に盛っていただく毎日。これこそ私たち夫婦にとってのささやかなぜいたくなのである。

◉こじま・ゆうじ
1959年東京都生まれ。84年東映入社。テレビドラマのプロデューサーとして、「暴れん坊将軍10〜12シリーズ」「八丁堀の七人」「京都地検の女」などをプロデュース。東映テレビプロダクションを経て、2022年7月から東映取締役京都撮影所長。千本通沿いに住み、近所の散歩をするのが週末の楽しみ。