二つのイベント

村田大介
村田機械株式会社 代表取締役社長

今年の明るい話題の一つに、文化庁移転があります。2年後には、大阪・関西万博が控えています。これらの大きなイベントについて、積極派も懐疑派も「どれほどの経済効果があるか」という視点での議論が目立ちます。社会全体が右肩上がりに成長していた頃とは違って、費用対効果への関心が高くなるのは当然でしょう。
しかし、限りのある資産を取り崩して延命するモードに入った社会は衰退してゆくものです。先輩たちが築いてくれた資産を再投資して、次の世代に残す新たな資産を形成できてこそ、明るい未来が開けてきます。そうした活動を、短期的な金勘定だけで測るべきではないと思います。
文化庁移転が象徴する「文化首都・京都」も、万博のテーマである「いのち輝く未来社会のデザイン」も、単なる耳に心地の良いお題目ではありません。私たち個人や会社にできることは小さくとも、それぞれが文化という切り口から日々の暮らしや仕事の意味をかみしめ、「いのち」、それを形づくる「こころ」と「からだ」に役立つ技の創造に励めば、社会全体を少しずつでも良い方向へと変えていくことができるはずです。
伝統と革新が表裏一体となっているところに、京都の可能性があります。これらのイベントが、その可能性を引き出す触媒となることを願っています。