夢を語り合う時間

吉川左紀子
京都芸術大学 学長

新春を迎え、今年の目標として私が一番に掲げるのは、「夢を語ること」である。
アーティストやデザイナーを目指す若い人たちが集う芸術大学で最も大切なのは、将来の夢や希望について、ああでもない、こうでもないと語り合える時間であり、語り合う仲間の存在ではないだろうか。
2021年4月、コロナ禍のただ中で学長職に就き、大学の中は遠隔教育の拡充や感染防止の対策に落ち着かない毎日が続いた。この時期、大学でのさまざまな意思決定の基準となったのは、エビデンス（根拠）や数字に基づく合理的な判断である。「3密」を避ける環境で、学生たちの安全を守り、無駄なく効率的に仕事をすることが何よりも優先された。
そんな中、私は教員、職員たち一人一人と語り合う時間を作ることにした。内容は、主に雑談である。1人1時間の予定が2時間、3時間になることもあった。未来や夢について語るとき、不思議に人は元気になる。今私の頭の中にある、これから実現していきたい夢の数々は、この雑談の時間の中で育まれた。
未来社会の構成員は、現在組織で意思決定をする立場にいる人間よりも若い世代である。若い人たちの夢やアイデアを未来の大学像の中にどうすれば取り入れられるか。そうした試みにチャレンジを続ける芸術大学でありたい、と考えている。