賛同企業代表者 文化人 対談シリーズ
経済面コラム

日々の暮らしに「善」を追求し、自らの意志で生きる時代へ

- 2024元日 文化人メッセージ -

樂 雅臣

無駄なものは何もない
意味があり、つながっていく

樂 雅臣
彫刻家

石を焼いてみた。高温の窯の中で焼かれた石は、原型はなく目をそらすほどに赤く輝き、固体から溶解しマグマのように窯の底にたまっていた。「自分の表現とは何なのか」常に頭の隅に置いている言葉が浮かび上がる。水あめのように溶けたその石に、どこか過去の自身の表現を探し、迷走している自分を思い出した。「どうしたらいいのだろうか」と。
幼い頃より純粋無垢、無知であった僕は、中学へ進学し自身の立場を知り、思い描いていた日常とは異なる社会の現状に、学校へ登校できず、自問自答を繰り返すこととなった。もちろん生活を共に過ごした家族はとても頭を悩ませたことだろう。いつものように口を閉ざし自身の殻に閉じこもっていた僕に、父がふと言葉を投げかけた。「無駄なものは何もない。道端に落ちている石でさえも意味がある」。その一言は今でも、鮮明に記憶に残っている。それ以来、「意味」というものに興味を持ち、自身も表現者(芸術家)として生きようと決心した。それ以降「何を表現するのか」を考える日々となった。暗中模索の中、美大の彫刻科へ進学し石を彫った。その瞬間、歯車がかみ合うように「まさにこれだ」と感じた。「芸術を通して何を伝えたいか」これは作家にとって非常に重要な問題であり、それがなくては表現にならない。
殻にこもって考えた日々もあり、すでにそれは重要ではなかった。必要なのは表現する素材であった。そこから無我夢中に石を彫りなんとか、多くの皆さまのお力添えがあり彫刻家として現在に至る。
冒頭の「石をやく」ということだが、これは主に2020年に入ってから挑戦している作品表現である。自身の作品シリーズ「輪廻」「Stone box」と同様に「自然の摂理に伴う輪廻」を題材にしている。「石」とは何なのか。自然の摂理の中で、石は土に変わり、土も石に変わる。現在目にする物質は、痕跡であり過去。同時に未来へのつながりでありその経過にある。要するに循環の中にいるということ。またそれは、無駄なものは何もなく、意味があり、すべてはつながっているということ。
2024年、中学生から年を取りおじさんへとなった。作家にとって作品は言葉。ようやく父からの言葉の返事を受け返す時が来た。美術館「えき」KYOTO 「石をやく 土をやく 樂雅臣 樂直入」展。父との作家としての展示である。

◉らく・まさおみ
1983年京都生まれ。2018年京都市芸術新人賞受賞。個展は美術館「えき」KYOTO、石川県立美術館、賀茂別雷神社などで開催。ヴェネチアでの特別展「PROPORTIO」(15)、「INTUITION」(17)に出品。海外でも広く活躍する。1月2日より美術館「えき」KYOTOで「石をやく 土をやく 樂雅臣 樂直入」展、6日よりZENBI―鍵善良房―で「光の器 樂雅臣 彫刻展」を開催。

石の彫刻を焼成した作品「あとかた 輪廻」
ⒸPhoto by Jörgen Axelvall