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経済面コラム

文化がつくる未来

- 2025元日 文化人メッセージ -

ユー・スギョン

世界各地にマンガの「生態系」
日本マンガに新風を吹き込む

ユー・スギョン
マンガ研究者

日本のマンガが世界で人気を獲得して久しい。韓国、台湾などの東アジアでは、1960年代頃から、ヨーロッパと北米では90年前後から本格的に日本マンガの受容が始まった。現在は、アフリカ、南米、中東などの地域にも日本マンガのファンは少なくない。このような話を聞くと、マンガを日本の誇りだと思う人も、海外向けのビジネスのチャンスだと捉える人も、中にはいるかもしれない。日本人ではないが、韓国でマンガを読みながら育ち、今は日本でマンガを研究している身として、私もうれしい。だからこそ、海外における日本マンガの人気の全体像を把握し、それが生み出しているものを知ることが重要だと考えている。
マンガの人気が数十年間も続いた結果、世界各地にはマンガの「生態系」とも呼ぶべきものが形成されている。その「生態系」には、日本と共通している部分もあれば、異なる特徴も存在する。マンガを買う場所も、楽しむ方法も、作品の見方も、必ずしも日本と同じとは限らない。例えば、長い間日本では娯楽と思われてきたマンガを多くのヨーロッパ人読者は芸術として評価する。また、時々多民族国家の読者から、日本のマンガ作品は人種的・民族的な多様性に欠けているという指摘が入ることも見方の違いを見せてくれる例である。
このような世界各国の「生態系」は、日本のマンガ界と完全に分離されているものではない。2000年代以降、韓国、台湾を中心に東アジアの漫画家による作品が日本で翻訳出版、または日本のメディアで発表されはじめ、近年はヨーロッパ出身の作家によるマンガの翻訳出版も少しずつ増えてきた。筆者が勤めている京都精華大にも、数百人に及ぶ留学生が世界各国からマンガを学ぶためにやって来ており、その多くは日本で漫画家、またはマンガ研究者になることを目指している。世界各国のマンガの生態系で育った人たちが、大人になって「マンガのふるさと=日本」に来ているのである。
日本マンガの文法で描かれた外国出身漫画家の作品からは、日本ではあまり見ないような独特な視点や表現が見受けられることもある。多彩なテーマとジャンルのマンガ作品が彼らの人生をより豊かにしたように、今度は彼らが日本のマンガに新しい風を吹き込む番なのかもしれない。それは、新しさや違いを大事にし、常に変化し続けてきた日本のマンガにふさわしい未来であるような気がする。

◉ユー・スギョン
1986年韓国生まれ。2004年来日。京都精華大大学院芸術研究科博士後期課程修了(芸術学博士)。同大国際文化学部専任講師。14年から京都国際マンガミュージアムを中心に、国内外のマンガ展、マンガ関連イベントの企画に関わっている。研究テーマは、「マンガの視覚表現」と「マンガのグローバルな受容」。

仏・漫画家ルノー・ルメールのトークショー(京都国際マンガミュージアム)2024年11月撮影