文化がつくる未来
- 2025元日 文化人メッセージ -
普遍的な平和を目指す行動
三牧聖子
国際政治学者
世界は日本にどのような平和への貢献を期待しているのか。日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)のノーベル平和賞受賞を受けて、あらためて考え続けている。
1956年に結成された被団協は、「私たちの体験を通して人類の危機を救おう」と、過酷な被爆経験の証言を積み上げ、核の非人道性を訴えてきた。戦争被害者が、怒りや悲しみを、加害者への復讐に向けるのではなく、未来の平和を目指す運動へと昇華させる。被団協は、平和運動のあるべき姿を示すものだ。だからこそ、そのメッセージは、日本をはるかに超えて世界中に届いてきた。
受賞を発表したノーベル賞委員会のヨルゲン・フリードネス氏は1984年生まれ。広島・長崎を訪問したことも、被爆者と直接話したこともないが、ノルウェーという地球の反対側にいながら、幼少の頃から被爆者の話に触れることができたことに感銘を受けたと語っている。フリードネス氏は、長崎以降、再び原爆が使用されることがなかった背景は、被爆者の活動による核の「タブー(禁忌)化」抜きには理解できないと力説する。
世界を見渡せば、このタブーは破られつつある。ウクライナ侵攻を続けるロシアは、核による脅しを何度もちらつかせてきた。中東パレスチナ自治区ガザで軍事行動を続けるイスラエルでも、「ガザを広島のようにする」といった発言が現役閣僚などから飛び出してきた。そのイスラエルに対し、法外な軍事支援を続けてきたのがアメリカだ。米政府は、ロシアによる軍事行動や核の威嚇は強く批判する一方、イスラエルへは決して批判を向けてこなかった。
被団協の活動が、世界的に評価されているもう一つの重要な理由は、その普遍性¦いかなる国がいかなる目的で持つ核も批判し、廃絶を求める¦にある。国際情勢の緊迫を背景に、日本でも、「自国や同盟国が持つ核は、純粋に防衛目的の『善』なる核であり、対立する国が持つ核は、侵略や攻撃目的の『悪』しき核だ」という二分法的な思考が浸透している。被団協はこの論理に抗い、保有しているのがロシアであろうと、アメリカであろうと、イスラエルであろうと、すべての核は大量破壊が可能な「悪」であり、核保有国が「自分たちが所有する核は善なる核だ」と主張し続ける限り、核はなくならない、そう訴え続けてきた。
被団協の平和賞受賞を生かすも殺すも、私たちの行動次第だ。日本が目指すべきは、普遍的な平和であることを改めて決意し、行動したい。
◉みまき・せいこ
1981年東京都生まれ。同志社大グローバル・スタディーズ研究科准教授。専門は米政治外交史。著書に「戦争違法化運動の時代」(名古屋大学出版会)、「Z世代のアメリカ」(NHK出版)、共著に「自壊する欧米―ガザ危機が問うダブルスタンダード」(集英社)、「アメリカの未解決問題」(集英社、近刊)など。Yahoo!JAPANコメンテーター。