賛同企業代表者 文化人 対談シリーズ
経済面コラム

日々の暮らしに「善」を追求し、自らの意志で生きる時代へ

- 2024元日 文化人メッセージ -

山敷庸亮

宇宙への旅のパートナー
関係性を再構築

山敷庸亮
有人宇宙学研究者

2023年12月、「第7回グローバルムーンビレッジワークショップ」が開催された。会議において、月面で千人規模の人が生活できるか、どのように経済を回すかなどが議論され、月面に何かを作って生活してゆくというのが、空論ではなく、大きな現実の事象になっているということに驚いた。
そもそも宇宙に移住をする必要があるのか?いずれは地球も居住不可能な惑星になるのは間違いない。その時まで人類が生き残っていれば、必ず他の惑星への移住を検討するだろう。
むしろ地球が青く美しい間に過酷な環境で人類が生きていけるかを試しておくべきではないだろうか?
私たちは「人類が他の惑星で長期間存在するためには、人類を育んできた周りの自然環境と一緒でないと生存できない」という概念を提案している。それ自体は受け入れられやすいのだが、「生態系」とともに、となると、途端に壁にぶち当たる。
例えば食料。人間を養うには、農業を徹底的に効率化させ穀物を生産し、かつ動物性タンパク質を得るために昆虫も含めた食料が必要だ。仮に生態系そのものを持っていった場合、人間の食料になり得る穀物は限られ、「大いなる無駄」を宇宙に持参することになる。
「大いなる無駄」を正面から捉えたのが、米アリゾナ大の「バイオスフィア2」である。あれだけの自然環境の中で、たった8人が2年間も生活できなかった。しかし、大切なことを教えてくれた。「人間一人を養ってゆくには、とてつもなく大きな自然環境が必要」で、今、世界人口を支えるための自然環境すら足りない地球上で、それを支えているのは「農耕技術=農業」だということだ。このことが「当たり前」になった人類の移住を考える時、農業を含む「人間を支えるための生命維持」システムの移転のみを考えてゆくのは自然なことかもしれない。
しかしながら、それは「人間の存在」そのものに対する180度真逆の転換となる。「自然」を効率化し生きる人類が、人間単独で宇宙に出るとき、母なる自然を全く忘れて、「宇宙農業」と「地球からの補給」といった人間を養うための技術のみで、存在できるのか?
そして、今われわれは、人間を産み育んできた、何も手を加えなくとも存在するはずの自然すら破壊し尽くそうとしている。それは親や先祖に対し恩知らずの行為ではないのか?何もかも「利用」することだけを考えてきた人間。宇宙への進出をきっかけに、われわれを取り巻く地球環境をもう一度見直し、宇宙への旅のパートナーとして関係性を再構築しようではないか。

◉やましき・ようすけ
1967年生まれ。京都大大学院総合生存学館教授/SIC有人宇宙学研究センター長。16年に太陽系外惑星データベース「ExoKyoto」を開発、公開。19年よりアリゾナ大人工隔離生態系「バイオスフィア2」を用いたスペースキャンプ(SCB2)を企画、実践。23年に「宇宙移住のための三つのコアコンセプト」出版。「テラフォーミング」に代わる「テラウインドウ」を提唱。