賛同企業代表者 文化人 対談シリーズ
経済面コラム

日々の暮らしに「善」を追求し、自らの意志で生きる時代へ

- 2024元日 文化人メッセージ -

村口和孝

シェークスピアに憧れ、未知の未来へ
ゼロからスタートアップに投資

村口和孝
ベンチャーキャピタリスト

私の人生は、40年にわたり、ずっと「スタートアップ」の創業活動に投資をしてきた。DeNAのように創業支援に成功したものもあれば、前向きな投資をした資金が、借金返済に使われ破綻したひどい失敗も経験した。
私は四国の大自然で育った。母親が結婚前、京大の経済学部長も務めた故・小島昌太郎教授(保険論、海運・交通論、経営学、金融論の先駆者)のお手伝いをしていたことから経済に関心を持ち、慶應義塾大で学ぼうとしたが、偶然、シェークスピア劇の演出に思いっきりはまり、留年した。悶々としていた1980年、ちょうど京都好きで知られるスティーブ・ジョブズ率いるアップルが上場した。入学後、大学のゼミでベンチャーキャピタリストという職業に運命の出会いをした。
現状維持のおごりは身を滅ぼす。未知の未来にゼロから、「ロミオとジュリエット」の青春のように、自らの人生を信じ情熱を投入し、多様な新事業のステップアップに挑戦することを「スタートアップ」と呼ぶ。新しい需要と供給が出合う機会を夢見て、商品を開発し、競争の中、試行錯誤で顧客を見つけヒットを狙う。事業計画を作って資金調達し、人を雇い、取引先とパートナーシップを結んで設備投資し、販売促進して売り上げを上げ、顧客を幸せにする。これが事業体に利益を、働いた者に報酬を、先行投資した投資家に富の回収を、また政府に税収をもたらす。スタートアップに投資する仕事がベンチャーキャピタリストである。人生、これ以上の社会善があろうか!
2023年は、フェイクを自動で作る「生成AI(人工知能)」が人間の意思決定をゆがめると心配した。気候変動も心配だが、ウクライナ侵攻に次ぐパレスチナ問題で、復讐が連鎖する地政学的リスクが大きい。中国とともに人口大国インドの経済発展はすさまじいが、常に経済史の主役は政府ではなく民衆の主体的な活力で、若者にチャンスがある。資産のある年長者が若者の未来に富を投資する。役所にできることはしょせん「楽市楽座」の整備だ。ゆく川の水の流れは絶えない。
努力は大切で、米大リーグ・大谷選手のように成功確率は上がるが、偶然の出会いや運もタイミングもある。急な為替変動など外部環境変化には逆らえず、途中けがや失敗もある。
「輝くもの必ずしも金ならず」(ヴェニスの商人)。人生の目標は、シェークスピアの作品数と同じ40社のスタートアップデビューだ。新年は、未来の京都、若い可能性に投資したい!

◉むらぐち・かずたか
1958年徳島県生まれ。84年に慶応義塾大を卒業後、投資ファンド勤務を経て、98年日本初の独立個人主体による投資事業有限責任組合「NTVP」を設立、代表を務める。DeNAなど企業の上場を多数支援。全国で学生や起業家に経験を伝える活動を行っている。2022年から創業支援拠点「インパクト・ハブ・キョウト」で月1回の道場を始めた。「ふるさと納税」提案者。