文化がつくる未来
- 2025元日 文化人メッセージ -
京都の強さを鍛え
大災害時代を生き抜く
牧 紀男
防災学研究者
昨年、2024年の元日は能登半島で大きな地震が発生した。被災した地域は9月の豪雨で再び大きな被害を受け、地震に耐えた建物が洪水で流されるという被害も発生している。被災した建物の解体は進んでいるが、今も被災した建物・道路がここかしこに見られる。揺れによる建物倒壊、大火、津波、中山間地域の孤立といった被害は、阪神・淡路大震災に始まる平成の地震災害の中で経験したことである。近い将来発生する南海トラフ地震では、能登半島地震で起こったことが広域にわたって発生する。
1月17日になると阪神・淡路大震災から30年を迎える。長く続いた新長田駅南側の復興市街地再開事業も24年10月に終わり、復興事業はようやく完了した。阪神・淡路大震災は、次の南海トラフ地震まで続く、地震活動期の始まりだと言われる。昭和の南海トラフ地震は1944、46年に発生したが、その前に豊岡、城崎が被害を受けた北但馬地震、京都府北部が被害を受けた北丹後地震が発生している。北但馬地震は今年100年、北丹後地震は再来年が100年となる。能登半島地震と南海トラフ地震の関係は不明のようであるが、今後も西日本で地震災害が継続することは確実である。
京都のまちには古い木造の建物が多く残り、道路も狭いことから、地震にみまわれると30年前の阪神・淡路大震災、昨年の能登半島地震と同じような、建物の倒壊、大火が発生する。京都市が行ったシミュレーションでは、火災により2万棟を超える建物が焼失するとの想定だ。能登半島地震による輪島市の焼失棟数は240棟あまりであり、その80倍以上の被害が発生するということである。火を消すためには水が必要であるが、京都市内の水源は限られており、京都を守るためには火災を消すための水源の確保が重要である。
昨年の元日、能登半島で起きたことは他人事ではなく、いつ京都で起こってもおかしくない。鴨川や桂川が氾濫するという事態も気候変動の影響を受け十分想定され、災害への備えを進めていくことが重要である。しかし、防災対策を進めたとしても被害をゼロにすることはできず、被災後に立ち直る力が重要となる。東日本大震災、能登半島地震を見ると人口減少・高齢化社会において復興は大変な課題である。
京都はこれまで幾多の戦乱、疫病、火災、さらには社会的な変化にしなやかに対応してきた。被害を減らす対策を進めることはもちろんであるが、大災害時代を生き抜くためには、さまざまな変化に対応してきた京都の強さをらに鍛えていくことが求められる。
◉まき・のりお
1968年生まれ。京都大防災研究所教授。専門は防災計画、災害復興計画。京都府など多数の自治体の防災戦略計画に関与。東日本大震災では岩手県災害対策本部で情報処理を支援。2014年から現職。「災害時連携NPO等ネットワーク」(京都市上京区)代表も務める。