思い描く、未来
- 2026元日 文化人メッセージ -

時代が変わっても
変わらない「重さ」を刻んで
宮川朋之
映画・ドラマプロデューサー
「火付盗賊改、長谷川平蔵」。
池波正太郎原作、松本幸四郎主演「鬼平犯科帳」の名乗りのシーンである。検索すれば顔写真が出てくる今と違い、名乗ることで初めて「鬼の平蔵」と悪がひるむ。時代劇の醍醐味は、名乗りに宿る重さとケレン味だ。松本幸四郎丈も五代目・長谷川平蔵を演じるにあたり、祖父の初代松本白鸚、叔父の二代目中村吉右衛門、丹波哲郎、萬屋錦之介ら歴代鬼平を繰り返し視聴し、自分の名乗りを探っていた。その姿に、歴史の「重さ」を感じた。
最近、その「重さ」を思い出す出来事があった。納戸を片付けていたとき、「お父さんの遺品」と書かれた段ボールから一冊のアルバムが出てきた。ページには、妻が娘たちの成長を父に送っていた写真が丁寧に貼られている。「はじめてのあんよ」「お食い初め」といった短い手書きの言葉。きちょうめんで手先が器用だった父らしい整ったレイアウト。そこには、静かな愛情が刻まれていた。
テーブルに広げると、娘たちと妻が自然に集まってきた。「若い!」「こんなに小さかったの?」写真を囲むだけで、空気が一気にあたたかくなる。やがて娘がアルバムの写真をスマホで撮り、「家族LINE(ライン)に送るね」とうれしそうに言った。形ある記憶が、形のないデータに変わっていく。便利だと思いながら、なぜか胸がざわついた。
自分のスマホにも写真はたくさんある。けれど、もし壊れたら、それも一緒に失われてしまう。クラウドに保存されているはずだけれど、あの「雲」は、本当につかめる雲なのだろうか。
娘たちがいつか家庭を持ち、家族が増えたとき│スマホの中の写真も、一冊のアルバムにして残してほしい。
新たな「鬼平犯科帳」第一弾「本所・桜屋敷」にも、撮影後の集合写真がある。幸四郎丈、山下智彦監督、キャストとスタッフの安堵の表情と、船出の緊張感。そこにも、「重さ」が刻まれている。時代が変わっても、変わらないものがある。私の描く未来にも、きっと一冊のアルバムがある。
◉みやがわ・ともゆき
1967年東京都生まれ。日本映画放送株式会社代表取締役社長。「時代劇専門チャンネル」のオリジナル時代劇作品の企画、プロデューサーを務める。2023年、映画「仕掛人・藤枝梅安」2部作で藤本賞新人賞受賞。松本幸四郎主演「鬼平犯科帳」シリーズのエグゼクティブ・プロデューサー。25年、アクション時代劇「SHOGUN’S NINJA」企画。

松本幸四郎主演「鬼平犯科帳 兇剣」©日本映画放送

