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経済面コラム

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- 2026元日 文化人メッセージ -

中嶋節子

京都の歴史をつないできた
持続することへの感性

中嶋節子
都市史学者

時間の器。京都はそんな表現がしっくりくるまちである。
盆地の地形が器となり、そこに平安遷都以前からの長い時間が蓄えられてきた。厚く堆積した時間は、地下に埋もれているのではなく、まちのかたちや風景として可視化されることで、いまここに居る私へとつながっている、と感じることができる。人々が京都に惹きつけられる理由は、そこにあるように思われる。
条坊制の格子状の街路と街区、古代から鎮座する神社、中近世に創建された寺院、近世の城郭、伝統的住まいである町家や農家、近代都市計画による道路と街区、近代建築、近代土木構造物、現代建築など、さまざまな時代の事物が、一つの都市空間に同時に存在する。そこには各時代を生きた人々の記憶も付着している。このような都市は世界的にも稀有である。
京都が1200年以上もの時間を内包しつつ、いまなお生きた都市であり続けるのは、京都の人々の持続することへの高い感性による。長い時間を経験するなかで、京都の人々は時代に流されず、その先へと続くことを常に志向してきた。一時的な時流に乗って商売を大きくするのではなく、常連客を大切にし、商品やサービスの質を落とさないことで、次の代に商売を確実につなぐことを旨とする老舗はその好例である。まちについても、近世の町式目には、家屋敷の売買にあたっては町の了解を得ることや、町の格にあった表構えの約束事が定められるなど、町の秩序の持続的な安定が、個人より優先されたことが確認される。
京都市はこれまで、歴史的環境と景観の保全を目的に、1930年に風致地区を指定、60年代後半から70年代には歴史的風土保存計画、市街地景観条例、伝統的建造物群保存地区条例ほかを他都市に先駆けて整備した。2000年代に入ると新景観政策、京町家の保全及び継承に関する条例など、先進的かつ独自性の高い施策を次々と打ち出してきた。こうした行政の取り組みもまた、持続することへの感性の表れといってよい。
しかし、近年の急激なインバウンド(訪日客)の増加、人口減少、高齢化は、京都に新たな試練を突き付けている。京都の持続することへの感性が問われる時である。変わっているように見えて変わらない、変わらないように見えて変わっていく。変わるものと変わらないものを見極め、しなやかに時代をつないできたのが京都である。
これまでの京都の歴史が、この先の未来を約束していると信じている。

◉なかじま・せつこ
1969年滋賀県生まれ。京都大大学院人間・環境学研究科教授。専門は都市史、建築史。博士(工学)。一級建築士。文化庁、京都府・市ほかの文化財審議会、京都府・市ほかの景観審議会、京都市の京町家保全・継承審議会などに参画。都市における景観形成の歴史から「風景とは何か」を考究。歴史的建造物・庭園の保存活用にも関与。