文化がつくる未来
- 2025元日 文化人メッセージ -
平安朝の日本人の心を
未来へと継承していく
田中恆清
石清水八幡宮 宮司
2024年のNHK大河ドラマ「光る君へ」は、平安時代中期が舞台であり、かつ源氏物語を書き記した紫式部が主人公でありましたので、京都御所をはじめ京都各地の名所が数多く登場いたしました。石清水八幡宮も番組最後の「紀行」で2度も取り上げられ、あらためて平安時代が遠い世界の断絶した過去の話ではなく、千年が過ぎた今でも深いつながりがある重要な時代なのだと幾度も感じた次第であります。
特に私たち神社の神職は、神様に奉仕する誠(まこと)心の精神、神事の服飾の制度、儀式や儀礼の次第、奏上する祝詞の言葉などの多くが平安時代に整えられ、後世に継承されてきた伝統であることを知っており、今も平安朝の精神をもって神明奉仕に励んでおります。
まさに平安時代に花開いた国風文化こそ、日本人の精神的、文化的な根源ともいえましょう。「光る君へ」の中でも、藤原道長や高貴な公卿たちが、さまざまな困難を乗り越えるために神仏へ参詣する場面は多くあり、平安朝の歴代天皇は国難に際し、神社への奉幣(ほうべい)を怠ることはなかったのであります。
その精神は時代が下り、鎌倉時代の順徳天皇が「凡(およ)そ禁中の作法は神事を先にし他事を後にす」と「禁秘抄(きんぴしょう)」にて仰せられたごとく、令和の御代にあっても今上陛下が宮中賢所(宮中三殿)にて国安かれ公民(おおみたから)安かれとご親祭あそばされる神々への祭祀を第一義とする日本の国柄は、平安朝より変わることのない伝統精神として今に受け継がれています。
現代に生きる私たちは、ややもすれば毎日のようにSNS(会員制交流サイト)などで発信される新しい価値観や思想などが、今までよりも良いものであると考え、伝統的価値観や古いものを軽視してしまう傾向があります。
しかしながら伝統とは、常に時代を超えて必要とされ、先人たちが後世に残すべきであると考え守り抜き、長い時間をかけて洗練され続けてきた珠玉の結晶であり、私たちの信仰、生活、仕事、人生の全てにおける大切な指針であると言えましょう。古く平安時代より、連綿と継承されてきた日本の伝統が断絶してしまうことは、日本人の根幹と誇りが失われる危機的な事態でもあります。この混迷の時代にこそ、日本古来の和を重んじる心や伝統文化を継承し、未来へとつなげていくべき時であると強く感じます。
歴史ある京都の地から、日本の伝統と精神を世界へ向けて発信し、いまだ世界中で止むことのない戦争の悲劇が一刻も早く終わりますよう心より祈りを捧げ、本年も平和な1年となりますことを切に願っております。
◉たなか・つねきよ
1944年京都府生まれ。69年國學院大神道学専攻科修了。平安神宮権禰宜、石清水八幡宮権禰宜、禰宜、権宮司を経て、2001年石清水八幡宮宮司に就任。02年京都府神社庁長、04年神社本庁副総長を務め、10年から神社本庁総長に就任。