賛同企業代表者 文化人 対談シリーズ
経済面コラム

日々の暮らしに「善」を追求し、自らの意志で生きる時代へ

- 2024元日 文化人メッセージ -

東田大志

コロナ禍を経て、改めて思う
ゲームの重要性

東田大志
パズル学研究者

2019年より京都市上京区にパズル教室を開き、パズルやゲームを通して小中学生に考えることの楽しさを伝えている。パズルとは、運や対戦相手のような自分の力でどうにもならない要素がなく、自分一人の思考力だけですべてを解決し勝利を目指す課題である。ゲームは逆に、運や対戦相手といった自分の力ではどうにもならない要素が含まれつつも勝利を目指す課題である。私の専門はゲームではなくパズル学であるが、パズルもゲームもともに子どもたちの成長には欠かせない遊びだと思っている。
23年は長らく続いたコロナの自粛モードが落ち着き、対面で人と会う機会が一気に増えた。大人だけではなく、多くの子どもも友達と遊ぶ機会が増えたことだろう。私の主宰するパズル教室でもまた、ゲームで楽しそうに遊ぶ子どもたちの姿にどこかほっとする日々である。
ゲームと言っても、パズル教室に置いてあるのはいわゆるテレビゲームの類ではない。トランプのようなカードゲームや、すごろくのようなボードゲーム、つまりアナログゲームである。例えば、すごろくでマス目を進む時も、自動的にコンピュータがコマを進めてはくれない。この単純な「コマを出た目の数だけ進める」という作業でも、低学年の子どもは正確に行うのが難しいものだ。またお金のやり取りをするゲームであれば、ちょうどで払えない時には多く払っておつりをもらう必要がある。最近では電子マネーでのやり取りが多いからか、高学年でもこれができない子が多い。だからこそ、アナログゲームの中で遊びながらこうした感覚を身に付けていくことが望ましい。
思えば昨年の東京おもちゃショーもゲームマーケットも、ものすごい数の親子連れでにぎわっていた。アナログゲームの人気の高まりを強く実感した。コロナ禍が明けて、多くの人が実際に他人とリアルな場を共有しながら遊ぶことのありがたみを改めて実感しているのだろう。
平安貴族が盤双六に興じ、戦国武将が囲碁を打つことを好んだように、日本人は古くからゲームに親しんできた。ゲームで遊ぶことは、人類の本質的で真剣な営みであり続けている。勝利の裏には緻密な戦略があり、敗北の裏には失敗からの反省と学びがある。誰もがその両方を経験し、同じ空間で喜びと悲しみを分かち合う。この重要性を、昔から日本人はよく知っていたのである。今年も大人子ども関係なく顔を突き合わせてゲームに熱中できる平和な日々が続くことを強く願っている。

◉ひがしだ・ひろし
1984年兵庫県生まれ。京都大大学院人間・環境学研究科博士後期課程修了。「パズル学」の論文により日本初の博士号を取得。パズル作家としても100種以上のパズルを考案している。現在は京大東田式パズル教室長。本紙「ジュニアタイムズ」にて「京大博士のパズルに挑戦」を好評連載中。