文化がつくる未来
- 2025元日 文化人メッセージ -
文化は融合して発展する
和魂漢才の人、菅公の思い
橘 重十九
北野天満宮 宮司
早咲きの梅がつぼみを膨らませており、もうすぐちらほらと咲き出すでしょう。年年歳歳、変わらぬ風景ですが、学問の神・菅原道真公(菅公)を祀る北野天満宮の宮司としては、何となく気ぜわしさを感じています。
菅公が亡くなられて1125年の半萬燈祭は2027(令和9)年3月であり、あと2年に迫りました。ここ十数年、「文道大祖(ぶんどうのたいそ) 風月本主(ふうげつのほんしゅ)」と崇められ、詩人・歌人でもあった菅公を顕彰するため、途絶えていた神事を再興するとともにさまざまな文化行事にも力を入れてきました。
当宮では京都連歌の会が春秋2回、紅梅殿で連歌会を張行(ちょうぎょう)されるのはもはや恒例となっており、子どもたちの百人一首や将棋大会の会場としても親しまれています。境内では、笛や管弦楽器の演奏、時にはピアノの音まで流れることもあり、参拝者から「なぜ?」と、いぶかしがられることもあります。しかし、当宮で奉納される歌舞音曲の全てが菅公を慰める法楽(ほうらく)なのです。
当宮は古来「聖廟(びょう)」と呼ばれ、さまざまな芸能でご祭神をお慰めすることを「聖廟法楽」と称してきました。2024年、江戸時代の天皇や公家衆らの詠んだ約2千首の和歌が「北野聖廟法楽和歌」として重文指定されました。まさに信仰と文化が表裏一体のものとして21世紀の今も受け継がれています。
1月2日朝から「天満書(てんまがき)」が始まります。室町期、当宮で大隆盛した連歌にちなみ菅公慰霊の神事とされた「裏白連歌」を発祥とする由緒ある神前書き初めです。初日は御本殿で筆始祭を斎行し、筆を持つ子どもたちの健康と技芸の上達を祈願します。ですから「天満書」は、信仰と文化の上に成り立つ神賑行事なのであります。子どもたちの心の中に「今年も何事もなく無事で」という天神さまへの願いや祈りが込められているのです。
日本はお茶も文字も中国から伝播し、お茶は茶道につながり、文字は漢字から平仮名ができ、和歌が生まれるなど、わが国独自の進化と発展を遂げてきました。「文化は融合して発展する」。日本人の精神を大切にしながら、外国の進んだ文化や技術の取り入れを是とされた和魂漢才の人、菅公の思いと重ね合わせることができます。
境内の至る所に日本の伝統文化が息づいています。大阪・関西万博を機にさらに増えることが予想される外国の方々をはじめ、国内外の皆さまに天神信仰の一端に触れていただき、日本文化の素晴らしさを感じていただければ幸いです。
◉たちばな・しげとく
1948年石川県生まれ。延喜式内社宮司社家25代に生まれる。会社員を経て74年より北野天満宮に奉職。禰宜、権宮司を経て、2006年から現職。その間、北野天満宮ボーイスカウトの創設に尽力。京都府神社スカウト協議会会長として青少年育成活動に努めた。全国天満宮梅風会会長。京都府神社庁理事。