賛同企業代表者 文化人 特集・未来へ受け継ぐ
経済面コラム

思い描く、未来

- 2026元日 文化人メッセージ -

豊嶋泰嗣

普遍的な感情を表すクラシック音楽
人生の感動を曲に重ねて

豊嶋泰嗣
バイオリニスト/ビオラ奏者

2025年京都府が「府内一円を音楽で満たす」ことを提唱して始まったのが「Music Fusion in Kyoto音楽祭」です。
今や世界中どこにいても簡単にネットで情報や音源を入手することが可能で、スマホやタブレットで音楽を聴くことができます。しかしながらそのような時代だからこそ、生の音楽に触れることの意義や楽しさを知っていただきたいと思うのです。
そもそもクラシック音楽というのは、西洋音楽の歴史の中でさまざまな変容を経て現代に至っています。レコードやCDが普及してから世界的な演奏家の演奏が身近になり、コンサートがなかなかできないところでも気軽に聴けるという利点があります。
でもやはり目の前で生演奏を聴くというのは視覚的な要素もあって、会場の雰囲気や空気感という点で録音を聴くのとは全く違う体験ができると思います。京都府内には必ずしもクラシック専用のホールがたくさんあるわけではないので、お寺だったり役場だったりとさまざまな会場で演奏しています。
さて、この「日本人の忘れもの知恵会議」の2026年のテーマは「未来との約束」「思い描く、未来」とのことですが、未来について語るのは少し難しいことです。というのも、クラシック音楽は基本的に過去の作品を再現する芸術であること、そして弦楽器も数百年前にできた楽器を使って演奏するという特殊な要素を含んでいるからです。
わずか40年ほどのキャリアですが、若い頃から弾いている作品をいまだに弾き続けているわけで、逆を言えば一生かかっても出ない問いの答えを探しているようなものなのです。過去の偉大な作品には、人間の持つ普遍的な感情を音に表すというところに、時代が変わっても価値がなくならない素晴らしさがあると思います。そして同じ曲なのにもかかわらず、慶事にも弔事にもふさわしいという名曲が存在することもクラシック音楽の素晴らしいところです。
結局、いろいろな経験を積んで人生の機微に触れるような感動をその曲に重ね合わせることができるかどうか、そしてそれを音で表現できるかということがわれわれ演奏家にとって大切なのだと思います。
京都という悠久の時が流れる歴史的な街で音楽を身近に楽しんでいただけるように、今後も活動していきたいと思っています。また、未来を思い描くために「温故知新」の精神を若者に伝えていきたいと思います。

◉とよしま・やすし
1964年生まれ。京都市交響楽団の特別名誉友情コンサートマスターほか、兵庫県立芸術文化センター管弦楽団、サイトウ・キネン・オーケストラなどでコンサートマスターを務め、日本の楽壇をけん引するトップ・バイオリニスト、ビオラ奏者。Music Fusion in Kyoto音楽祭音楽監督。京都市立芸術大教授。アルティ弦楽四重奏団をはじめ、近年は関西を拠点に活動。

Music Fusion in Kyoto音楽祭 提供