日々の暮らしに「善」を追求し、自らの意志で生きる時代へ
- 2024元日 文化人メッセージ -
自然の息吹の中から
日本人の精神と身体感覚を取り戻す
田中恆清
石清水八幡宮 宮司
4年にわたり全世界へ蔓延し続け、多大なる犠牲者を出してきたコロナ禍も、昨年よりようやく終息の兆しを見せはじめてきました。
感染症としての分類も、インフルエンザと同じ5類にはなりましたが、いまだ予断を許さない感染症であることに間違いありません。
私たち日本人が、コロナ禍によって受けてきた被害は疫病災害にとどまらず、今まで継承されてきた日本の伝統文化が断絶してしまうという重大な危機と、それに伴い日本古来の伝統精神が失われ、日本人の根幹と誇りが失われるという二重の危機に直面していると強く感じています。
この4年間、感染症対策として全国の神社では多くの伝統的行事が行われず、または形を変えて実施され、神事のみ神職により斎行されてきました。
いにしえより神社は、多くの人々が神に祈りを捧げるために集い、ご神前で重要な話し合いを行ってきた、人々の心のより合う所であり、地域の中心的な場所でありました。
しかしながら、この数年間は、多くの人々が、一堂に集まる機会はできるだけ避けられ、リモートワークのように人と人とが直接関わらないのが最も良いとされてきたのであります。
それ故でありましょうか、現代社会で近年問題視されてきた人間関係の希薄さにより拍車がかかり、高齢者や若者の多くは孤独に陥り、心を病まれる方も増加傾向にあると聞いています。
今こそ私は、多くの人々に神社へお参りに来ていただき、四季折々の自然の息吹の中にその身を置いていただきたいと願っております。
神社は鎮守の森の中に存在し、樹齢数百年の木々や、自然や動植物の命に育まれた森の奥深くに鎮座しています。
美しい自然の中で呼吸を整え、木々のざわめきや野鳥のさえずりに静かに耳を傾け、神々へ祈りを捧げることは、日々の生活の中では失われ、自宅の部屋では決して体験することのできない日本人本来の精神と身体感覚を取り戻す貴重な経験になると信じております。
長いコロナ禍によって、日本の伝統や文化、精神が失われつつあるこの混沌の時代こそ、皆で神社へ集い、人と人とのつながりや歴史ある行事を共に復興させて、未来へとつなげていくべき、危急の時ではないでしょうか。
歴史ある京都の地から、受け継いできた日本人の精神を世界に発信していただき、本年も平和な1年となりますことを願っております。
◉たなか・つねきよ
1944年京都府生まれ。69年國學院大神道学専攻科修了。平安神宮権禰宜、石清水八幡宮権禰宜、禰宜、権宮司を経て、2001年石清水八幡宮宮司に就任。02年京都府神社庁長、04年神社本庁副総長を務め、10年から神社本庁総長に就任。