思い描く、未来
- 2026元日 文化人メッセージ -

日本人らしく生きる未来社会
田中恆清
石清水八幡宮 宮司
昨年大阪の夢洲にて開催された大阪・関西万博(日本国際博覧会)は、大変盛況の中閉幕いたしました。今回の万博は、人類の社会を五つの時代に分類し、狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続いて政府が提唱する未来の社会である「超スマート社会」を実現していくことが日本の国家戦略としても目標とされていました。
誰もが快適で豊かに暮らせる超スマート社会の実現には、ICT(情報通信技術)やAI(人工知能)の活用が欠かせないと言われていますが、私はまず人の心をより豊かにしていくことが最も大切であると考えます。
なぜなら近年、心を病む青少年の数は増加傾向にあり、その原因はさまざまではありましょうが、やはり人間関係の希薄さも大きな要因であると考えられているからです。戦後の個人主義を尊ぶ風潮の中で、日本人は「自分らしく」生きることを目指して、他者とは違う自分だけの個の確立が重要視されてきましたが、本来はこの歴史ある日本に生きる私たちは、「自分らしく」生きる道を模索する前に、「日本人らしく」生きる道とは、どのような生き方であるのかを、もっと深く考えてくるべきではなかったでしょうか。
日本には、京都をはじめどの場所に行っても素晴らしい自然の風景と景色、また伝統的建造物や有名な社寺が数多くあります。そして必ずと言っていいほど、その景色、その風景、その建造物の中には、日本人の美しい心が内包されているのであります。他人を思いやる和の心や、正直に生きる誠の心など、古来日本人の持つ心が具現化され形となって今に伝えられてきたのが、日本の文化であるからです。
私たちの未来社会を描き出す時、まず目指すべき形を整えるのは当然でありましょう。しかしながら「形」の中には、「心」が必要なのです。どんなに素晴らしい理想社会であっても、私たち日本人の心が豊かでなければ、未来の社会は空虚な社会となってしまいます。
情報社会の発展は、世の必然の流れではありますが、私たちは自分自身を見失わずに、「自分らしく」生きる道とともに、日本の文化と歴史に誇りを持つ「日本人らしく」生きる道を見つけて、素晴らしい未来の社会を思い描いていただきたいと願ってやみません。この変革の時代にこそ、日本古来の心や伝統文化を、未来社会へとつなげていくべき時であると強く感じます。歴史ある京都の地から日本の心を発信し、世界の恒久平和と素晴らしい未来社会の実現に向けて心より祈りをささげ、本年も平和な一年となりますことを切に願っております。
◉たなか・つねきよ
1944年京都府生まれ。69年國學院大神道学専攻科修了。平安神宮権禰宜、石清水八幡宮権禰宜、禰宜、権宮司を経て、2001年石清水八幡宮宮司に就任。02年京都府神社庁長、04年神社本庁副総長を務め、10年から神社本庁総長に就任。


