思い描く、未来
- 2026元日 文化人メッセージ -

日常に存在する宗教、
現代の人に伝わる言葉で
竹下 ルッジェリ アンナ
宗教学者
両親の影響で東洋思想に興味を持つようになり、日本人の先生に空手も習いました。大学では日本語を学び、日本の宗教哲学を専攻しました。
1993年に日本に留学した際、妙心寺霊雲院で坐禅修行の機会を得ました。その体験が深く心に残り、どうしても日本に帰りたくなって、97年に花園大大学院に進みました。以来、ずっと日本で暮らしています。
大学の卒論テーマは白隠慧鶴禅師。禅師が創作した公案「隻手音声」に衝撃を受けたからです。「両手を打つと音がする。では、片手ではどんな音がするか」という問いです。論理的な思考が断ち切られる、何かに打たれたような鮮烈な感覚でした。ただし、禅は書物だけでは学べません。卒論を書きながら、イタリアにある禅寺で修行を続けました。
京都外国語大学では、英語で日本の宗教を教える授業も担当しています。現代では、宗教を信じていないという若者も多いでしょう。ところが、仏教や神道など自分たちの宗教のことを知りたいという学生も多いのです。
日本の公立学校では宗教を教える授業はありません。その善しあしはありますが、実は宗教は日常生活に存在していて、文化と区別するのが難しい面もあります。宗教学会でもこれから、どのように宗教を教えるのかが大きなテーマになっています。
これからの時代、私は「倫理」がポイントになると考えています。
カトリック神学者のハンス・キュング博士が提唱した地球倫理、グローバル・エシックスは、それぞれの宗教、文化を否定せず、理解し合う宗教間対話を重視します。
そして、多くの宗教に共通する教えを、宗教の言葉を使わずに伝えようと試みます。自分がしてほしいことを他人にする、愛する。大切にする、そういう考え方です。今の時代に特に大切ではないかと思います。
こうした倫理を教えるのはかつては宗教の役割でしたが、今は難しくなっています。現代の人々にも伝わる方法を考える必要があります。
白隠禅師の魅力は、禅の修行を僧侶だけの特権ではなく、市井の人々にも広げたことです。禅師には多くの在家の弟子がいました。女性も多くいました。公案を手がかりに自分で考え、体験することは現代において重要な意味を持っています。
ソーシャル・ネットワークは、誰かから聞いた誰かの言葉にあふれています。自ら考え、体験し、自分の言葉で語ること、そういう知恵を磨いてほしいと思います。
◉たけした ルッジェリ アンナ
1971年イタリア・パレルモ市生まれ。国立ヴェネツィア大卒。花園大大学院などで禅を学ぶ。2011年京都外国語大外国語学部イタリア語学科准教授、19年から教授。花園大国際禅学研究所客員研究員。専門は宗教哲学。監訳に「バチカン株式会社 金融市場を動かす神の汚れた手」など。


