賛同企業代表者 文化人 特集・未来へ受け継ぐ
経済面コラム

文化がつくる未来

- 2025元日 文化人メッセージ -

重森千靑

幼少の原風景、庭作りの基礎に

重森千靑
作庭家/庭園研究家

私の両親は京都出身で、私は東京で生まれ育ったが、家では常に両親の京都弁が飛び交っていた。家の中では京都、外に出ると江戸弁という、今考えると、この混沌さが自分の考え方の源になっていることが分かる。
私が日本庭園作りに従事しはじめたのは20代後半からである。日本庭園の設計に従事していることから、京都が生誕、生育の場であると思われる方が多い。もちろん祖父や父が庭園設計や庭園史研究に従事していた環境が大きいが、実は幼少の頃の周辺環境が、現在の仕事に大いに結び付いているのである。
生まれ育った周辺には、東京大構内にある元前田家の庭園や、小石川植物園、根津神社など、現在の自分の仕事に当てはまるような環境がそこかしこに点在しており、そのような場所が遊び場であったことが自身の原風景と言ってよいのである。原風景というと、自然環境を思い起こす方が多いが、私の場合、江戸における近世の庭園が原風景なのである。庭園を遊び場にしたり、また江戸初期の建物に触れるなど、知らず知らずのうちに遊びを通した体験的なことから、伝統を刻み込めたのである。特に庭園を使っての遊びは好みの場であった。石と石の間を飛んで移動したり、木登り、滝登りをした記憶は、今でも鮮明に覚えている。また夏休みごとに帰京した際、鴨川での川遊び、松ヶ崎での山遊びも楽しみの一つであった。これらの経験値が、現在の庭作りに大きな基礎を築いてくれたと思っている。
私にとっての「文化がつくる未来」とは、幼少の原風景であったり、また生活環境を通して身に付けたことであったり、遊びを通して身に付いたことが、庭園という伝統文化につながったのである。しかも京都と東京という全く異なる文化の中で育ち、成人してからはそれらの文化を使い分けながら仕事に生かしていくことの重要性を認識できたことは、とても大きな力になっている。
このようなことから現代に生きる自身の考え方や、伝統継承の大切さと同時に、次世代へとつなげていく新しい考え方などを導入することが、今を生きるわれわれに課された命題であり、未来に活躍する人たちへ、文化の先進性や美学を伝えていくことが重要なことであると考えている。未来の人たちが、昭和、平成、令和に生まれた庭園への思いを受け継いでもらい、その考え方に刺激を受け、新たなる創作意欲に結び付けることができれば、伝統分野とは、常に先進的な仕事であるということを伝えていくことができるのではないかと考えている。

◉しげもり・ちさを
1958年東京都生まれ。中央大文学部卒。重森庭園設計研究室代表。京都工芸繊維大非常勤講師。昭和を代表する作庭家・庭園研究家重森三玲の孫。日本庭園についての著述、講演活動ならびに日本全国の庭園設計に携わる。庭園作品は「松尾大社瑞翔殿庭園」「真如堂・随縁の庭」など多数。著作に「京都 和モダン庭園のひみつ」(ウェッジ)など。

真如堂・隨縁の庭