賛同企業代表者 文化人 対談シリーズ
経済面コラム

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- 2024元日 文化人メッセージ -

塩原直美

「究極の推し活」は京都への「恩返し」

塩原直美
京都観光アドバイザー

「華道で使う剣山って分かる?」「十二支全部言える?」「赤穂浪士、忠臣蔵の話は知っている?」─20歳前後、20人の生徒たちがいる教室は「シ~~~ン」、空気が固まった。将来、観光、ホテル、交通業界を目指す専門学校での授業の一コマである。
私はこの学校で「京都を通して日本文化を学ぶ」という授業を長年担当している。日本の歴史、文化、暦や祭り、食や芸能、風習、それらを「京都」を例に解説するというわけだ。生徒たちは「グローバルな社会人になりたい」と口々に語り、語学を競い合い、たくさんの資格試験を受けて在学中に取得する。やる気は満々だ。
話が少しそれるが、以前、私の妹がカナダ滞在中、突然「武士道って何?」「盆栽の説明を」と連絡してきた。帰国後、「出会った仲間はお国自慢をするのに、私だけが日本を語れなかった、聞かれても何も答えられなかった」と落ち込んでいた。妹は英語を話せても、母国を語れない日本人であることに直面したのであろう。世界の人々はわれわれが思っている以上に日本のことを知っていて、興味もあり、そして日本が好きなのである。
私は京都・観光文化検定試験(京都検定)の講師でもある。京都検定は2023年に20周年を迎え、全国のご当地検定が受験者数に苦戦する中、現在も年間7千人の受験者をキープ。1級合格は超難関であるが、京都ファンはチャレンジし続けている。講義では合格につながる話だけでなく、京都の奥深い魅力、ハマってしまう魔力と知的好奇心への共感を念頭に置いている。現代風に言えば、私の京都偏愛による「究極の推し活」とでも言えよう。
そうした京都検定も京都観光も今まではコアな京都ファン、歴史好きで潤っていた。しかし、今、若い世代の「日本離れ」が進み、日本の歴史を知らずに世界へ飛び込む、その危うさを憂う。その根底では核家族化が進み、「個」が尊重され過ぎて、家庭や社会の中で継承されてきた日本の良き文化・風習が終わりを迎えつつあるのではなかろうか。祖母から聞いた「嘘つくと閻魔様に舌を抜かれるよ」「おはぎとぼたもちの違い」は、もはや幻。それでも私は諦めずに語り続ける。そして、それらを見聞、体感でき、最も整っている場所が「京都」であることも。私の「究極の推し活」は振り幅が実に大きいが、ブレない「京都」という支点が、そこにあるから、迷いはない。
冒頭の専門学校、昨年の生徒たちは卒業旅行先を海外ではなく「京都」に決め、1人は京都検定も受験してくれた。これ以上の「冥利」があろうか。それこそが私の人生をより豊かにしてくれた京都への「恩返し」でもある。

◉しおばら・なおみ
東京都出身。國學院大文学部日本史学科卒。京都検定講師。「京都を学ぶ板橋の寺子屋」主催。京都カフェ実行委員長。中学、高校など学校へ出向き修学旅行事前学習など、首都圏を中心に講師活動を行う。BS朝日「あなたの知らない京都旅」ブレーン、岩崎書店「京都まるごと図鑑」監修など。京都検定1級取得。京都在住経験あり。京都をテーマに全国も旅する。

東京での「京都検定」の講演会