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- 2025元日 文化人メッセージ -

古賀博隆

世界中で「時代劇」を
待っている人がいる

古賀博隆
東映京都撮影所 衣裳部

1980年、アメリカでドラマ化された「SHOGUN将軍」が2024年再び脚光を浴びた。米テレビ界のアカデミー賞と呼ばれるエミー賞で18部門受賞の快挙となった本作は、真田広之の俳優としての集大成でもある。
僕たちの出会いは40年前にさかのぼる。僕は福岡から上京、スタントマンとして活動していたが母の猛反対で衣裳部へ。1年間は「大奥」で見習い現場付きとして、風呂敷に包んだ打ち掛けを撮影現場へ夢中で運んだ。真田広之は、東映京都12年ぶりの大作映画「柳生一族の陰謀」で時代劇デビュー。「影の軍団Ⅳ」で初めて一緒に仕事をした。片やアイドル的な存在で人気絶頂。僕は新人で帯の結び方を練習していた。やがて映画「里見八犬伝」に携わり、お互い同年齢で気が合った。1989年時代劇「坂本龍馬」のロケ最終日、打ち上げでのこと。大勢のエキストラの衣装を片付け、盛り上がる宴会場に遅れて参加。そっと襖(ふすま)を開けるも席はない。部屋に戻ろうとした僕に「隣に座りなよ!」と大きく呼び掛け手招きしてくれた。彼は主演俳優、僕は衣裳部の若手…どんな時も立場を越え接してくれた。東映京都での最後の作品は92年。二度と会えないと思った。
時は流れ2021年、LINE(ライン)が届く。撮影に協力してほしいとの連絡。文章から本気度が伝わってきた。コロナ禍もあって迷った。周りも止めたが「真田が必要としてくれている」。カナダ・バンクーバーへ向かった。到着後、彼にあいさつするため撮影現場に向かった。「おっ古賀っち、やっと着いたか」。30年ぶりの再会も、すぐに20代の頃の二人に戻れた。
2カ月間の滞在中、機材やスタッフ数、そして工場のようなスタジオで衣装や鎧(よろい)の製作…スケールの違いに圧倒された。衣装デザインを務めたカルロスの事務所には「日本画」の資料や神社の図鑑、日本文化の書籍が山積み。熱い思いが伝わってきた。
「時代劇」には着物の良さが詰まっている。さまざまなデザイン、トンボ柄は勝ち虫の意で武将が好んだなど、衣裳倉庫で先輩たちが残した衣裳を手に取るたび、デザインした人、演じた俳優さんに思いをはせる。くしくも24年は、担当した自主製作の映画「侍タイムスリッパー」も話題になった。
バンクーバーではハリウッドが本気で「時代劇」を作ると太刀打ちできないとも思ったが、巨額予算をかけるだけの魅力、世界中で「時代劇」を待っている人がいることを確信した。「時代劇」は日本人の原点を知ることができる。「時代劇」の本家は日本であることを忘れてはならない。

◉こが・ひろたか
1960年福岡県生まれ。22歳の時地元で、日本のスタントの草分け宍戸大全氏に見いだされ東映京都へ。翌年、衣裳部に配属。時代劇作品を中心に活動。俳優真田広之さんが主演とプロデュースを務めた米配信ドラマ「SHOGUN 将軍」では「着物スペシャリスト」として関わる。東映太秦映画村のイベントをはじめ、1月17日公開「室町無頼」なども担当。