賛同企業代表者 文化人 対談シリーズ
経済面コラム

日々の暮らしに「善」を追求し、自らの意志で生きる時代へ

- 2024元日 文化人メッセージ -

木戸源生

先人たちの魂をつなぐ
「気韻生動」を大切に

木戸源生
手描友禅染作家

江戸時代中期に確立された友禅染は、小袖から現代の着物を中心に幅広い展開を見せ、西陣織と並び、共に発展した伝統的工芸品で、わが国の模様染めの華として大きく君臨しています。
それは生まれた当時から今日に至るまでの先人たちの創意工夫、切磋琢磨、たゆまぬ努力があったからこそ、多くの人々に愛され、親しまれてきたからにほかなりません。まさに友禅染の美は日本の美と言っても過言ではありません。
しかし、そうなるまでにはさまざまな苦難の時代がありました。幾度の奢侈禁止令の中では絹の代わりに綿、麻を使用したり、鹿の子絞りの代わりに摺り疋田、描き疋田という新しい技法が生まれ、紅(茜)を裏地に染めるなど、職人たちの魂でその時代に立ち向かい、乗り越えてきました。
また特筆すべきは、大戦を経ての戦後、食糧難の中、原材料も乏しく、食べることがやっとの時代、餅米から作られるのりを大量に使い染め上げた作品が数多く現存しており、当時の職人たちの心意気がひしひしと伝わり、見る者の心を奪います。中には落款を押されておらず作者不詳のものも少なくありませんが「どうだ!」と胸を張る声が聞こえる気がします。
材料、道具など、当時とは比べ物にならないくらい進歩している中で、染められた作品群に、心に響くものが少ないのはなぜでしょうか。表面だけの美しさにとらわれ、本質を見失い、精神が入っていないのかもしれません。先人たちのお叱りの言葉が返ってくるやもしれません。「気韻生動」を大切にしたいと思います。
友禅染をはじめ、京都の伝統産業に興味を示し、志す若者は多くいます。ただ現代社会では職人との徒弟制度は容易に成り立ちません。幸いにも私は、京都伝統工芸大学校に新設された京手描友禅専攻で指導する機会をいただき、後継者育成に携わっています。自由に自分の好きな道を選ぶことのできる平和な日本の国に感謝し、友禅染の基礎を大事に、素材を大切にし、自由な発想の下、先人たちの気概に負けない気持ちを込めて、作り手から使い手へと思いが伝わる作品を目指し、日々研さんを重ねています。その真摯な若者たちには未来につなぐ一筋の明るい光が見えているに違いありません。

◉きど・げんせい
1951年愛媛県生まれ。伝統工芸士(京友禅)。京都府伝統産業優秀技術者「京の名工」。京都伝統工芸大学校講師。高校卒業後、京都の染匠に入門。染色全般を学ぶ。86年に独立。2023年瑞宝単光章受章ほか、受賞多数。京都手描友禅協同組合副理事長、日本染織作家協会副理事長。

「熨斗目」