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- 2025元日 文化人メッセージ -

鎌田松代

「慮る」を土台とした
共生社会の実現に向けて

鎌田松代
公益社団法人
認知症の人と家族の会 代表理事

認知症の人と家族の会は、1980年に結成し認知症の人と家族を中心に認知症に関心のある人が会員の全国組織の団体です。
当会の理念である「認知症になっても安心して暮らせる社会」づくりにつながる法律「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」が2024年1月1日に施行され、国の基本計画が同年12月に閣議決定されました。2025年は地方自治体にこの計画が発出され、この法律のコアとなる「当事者参画」によって、地域での認知症施策や取り組みづくりが本格始動します。
この法律は目指す社会を法律名にしています。それは「共生社会」です。法律の第1条では「認知症の人を含めた国民一人一人がその個性と能力を十分に発揮し、相互に人格と個性を尊重しつつ支え合いながら共生する活力ある社会」と記されています。認知症を切り口に国民の多様性を認め合い、支え、支えられながら自分らしく生きることと受け止めています。それは人を「慮(おもんばか)るまちづくり」だと思います。
「慮る」とは「周囲の状況などをよく考慮する」「思い巡らす」という意味を持っていて、「相手の境遇や状態、または感情などに思いを巡らせ、配慮するといった意味で用いられる」と書いてあります。とても良い心遣いだと思いますが、昨今はいかがでしょうか。そのような配慮をする人は少なくなっているように感じます。人との交流が直接ではなく、SNS(会員制交流サイト)などインターネットでの文字や映像などでのつながりになってきている面があるのではないでしょうか。町内は超高齢化で夏祭りや運動会、市民新聞の配布などの問題があります。ボランティアでの対応や募集方法を変更し継続していますが、若い世代は思いを行動に移すことにちゅうちょがあるようです。思いやりという行動変容は、気持ちの和らぎや人とのつながりを強くするように思います。「慮る」です。
「共生社会」の実現に向かっての第一歩は「認知症に関する正しい知識及び認知症の人に関する正しい理解を深める」です。それは国民の責務と認知症基本法に記されています。その上に立って、「相互に人格と個性を尊重しつつ支え合いながら共生する活力ある社会」とある共生社会は、人が人に対し「慮る」が土台にあり、創り上げていかれるものだと思います。
「慮る」は「日本人の忘れもの」の一つではないでしょうか。ネット時代の今、難しい、心の中の「慮り」を表すことが、共に生きる社会につながります。

◉かまだ・まつよ
1956年佐賀県生まれ。看護師として滋賀医科大医学部付属病院や特別養護老人ホームなどで勤務。2019年から「認知症の人と家族の会」事務局長を経て、23年より現職。