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経済面コラム

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- 2026元日 文化人メッセージ -

笠原一人

街の環境を豊かにする「建築多層性」

笠原一人
近現代建築史研究者

私は、近現代建築史と建築保存再生論を専門とする研究者である。近現代建築の歴史・文化的価値やその価値を後世に伝える方法について研究し、実践活動を行っている。
明治期以降に建てられた近現代建築は、とりわけ京都では、その歴史・文化的価値があまり認められてこなかった。また都市部に建つものが多く、経済活動に淘汰されやすいため、保存の対象となりにくい存在だった。
しかし近代建築は、京都の近代化や人の営みを物語る貴重な存在だと言える。現代建築も、世界的に高く評価されるものが多数存在する。また近年、オリジナルの姿を重視する「保存」よりも、改修しながら使い続ける「活用」が、世界的な潮流となっている。
こうした認識や状況の変化があっても、近現代建築の保存活用への道のりは、簡単ではない。ヨーロッパでは、国や自治体が建物を強制的に文化財に指定できる。しかし日本では、所有者の同意なしには指定できない。それではなかなか建物が残らないのが実情だ。
そんな状況を少しでも変えたいという思いで、いくつかの活動を行っている。その一つが、2022年から始めた京都モダン建築祭である。歴史・文化的価値が高い近現代建築を、所有者の許可を得て公開したり、専門家が案内したりするイベントだ。25年には延べ7万人以上の参加者を得た。
参加者は、建物の鑑賞を通じて、京都の街の歴史や近代化のあり方を理解する。一方、建物の所有者や管理者は、参加者の関心の高さに勇気づけられ、建物の保存や活用への気持ちを高めることになる。建物の価値をみんなで共有し、支え合いながら残していくことを可能にするイベントだ。
他にも、一般社団法人リビングヘリテージデザイン(旧住宅遺産トラスト関西)を設立し、建築家や建築史家、弁護士、不動産事業者らと共に2015年から活動している。歴史・文化的価値の高い建物が解体の危機にひんした際に購入者を探したり、空き家となっている同様の建物の活用をお手伝いしたりする組織である。
街にさまざまな時代の建物が存在し、層を成すことによって、豊かな歴史・文化的環境が生まれるはずだ。人々に豊かな生活や多様なつながりをもたらし、先人の知恵や文化を持続的に継承することも可能になる。そんな社会を「生物多様性社会」になぞらえて、「建築多層性社会」と名付けてみたい。私の活動は地道なものだが、こうした建築と社会をつなぐ活動の輪が広がれば、いつかは「建築多層性社会」が実現することだろう。そんなことを思い描きながら、ゆっくり歩みつつあるところだ。

◉かさはら・かずと
1970年生まれ。京都工芸繊維大大学院博士課程修了。2010-11年オランダ・デルフト工科大客員研究員。現在、京都工芸繊維大准教授、神戸女学院大特任講師。一般社団法人リビングヘリテージデザイン理事。京都モダン建築祭実行委員長。神戸建築祭実行委員。著書に「ダッチ・リノベーション」「村野藤吾の住宅デザイン」「建築家浦辺鎮太郎の仕事」ほか。

京都モダン建築祭で特別公開された京都市京セラ美術館貴賓室