文化がつくる未来
- 2025元日 文化人メッセージ -
「文化イノベーション都市」として
京都は世界をリードすべき
入山章栄
経営学者/
京都市都市経営戦略アドバイザー
2021年に京都市の経営戦略アドバイザーに就任した。以来、京都市をイノベーティブで新しいビジネスが生まれる都市にするための活動を行っている。主要な活動は「Kyoto Innovation Studio」というもので、国内外のさまざまな面白い人々を京都市の方々とつなげ、そして京都市の中の方々も互いの垣根を越えてつないでいる。活動を通じて、京都はさらにイノベーティブな世界的都市になれるという確信を得てきた。鍵になるのは、京都の文化面である。イノベーションという言葉にはITやAI(人工知能)などの印象が強いが、これからのイノベーションの牽引役は、実は「文化」だからだ。京都は「文化イノベーション都市」として世界をリードすべきである。
たとえば、23年にフォーブス誌が発表した世界長者番付で1位になったのは、イーロン・マスクでもビル・ゲイツでもない。仏の高級ブランドグループ、ルイヴィトン・モエ・ヘネシー(LVMH)のベルナール・アルノー会長である(推定保有資産額28兆円)。世界最高の富豪はIT長者ではなく、「文化の長者」なのである。そして京都市の文化の深さは、LVMHの本拠であるパリをはるかに凌駕(りょうが)する。だとすれば、京都から新しいベルナール・アルノーが登場することは夢物語ではない。
「文化イノベーション都市・京都」を実現するには、三つの課題がある。第1に、外国人富裕層に向けての大幅な値上げである。これ以上京都に短期滞在のインバウンド観光客を増やすべきとは、筆者は考えない。重要なのは京都に長く滞在して、本当に価値のあるものに高いお金を払ってくれる外国人富裕層をだけ選び、彼ら彼女らへ本格サービスを提供することだ。筆者の肌感では、これらの方々は今の10倍以上の価格を払ってくれるはずだ。第2に、この値上げを実現するためにも、さらに京都の文化の国際発信が不可欠だ。そして第3が、文化とテクノロジーの融合である。 LVMHはウェブサイトやアプリケーションを通じてさまざまなデジタルマーケティング施策を行っている。今後はAIも活用されるだろう。京都の潜在性のある芸術、伝統技術も、デジタルを通じて世界に発信され、使われていく必要がある。ますます国内外から優秀なデジタル人材を京都に呼び込む必要があるのだ。
アメリカは建国されてまだ250年ほどの歴史しかないが、日本は二千年近い歴史を持っている。この「1750年の差」は永久に縮まらない。そしてその中心となるのは東京(たかだか400年の歴史しかない)ではなく、間違いなく京都なのである。
◉いりやま・あきえ
1972年東京都生まれ。早稲田大大学院経営管理研究科、同大ビジネススクール教授。慶應義塾大大学院経済学研究科修士課程修了後、三菱総合研究所でコンサルティング業務に従事。2008年、米ピッツバーグ大経営大学院にてPh.D.(博士号)取得。19年より現職。専門は経営学。21年より京都市都市経営戦略アドバイザーに就任。