賛同企業代表者 文化人 特集・未来へ受け継ぐ
経済面コラム

文化がつくる未来

- 2025元日 文化人メッセージ -

今中雄一

危機から健康を守る
ヘルスセキュリティー

今中雄一
医療経済学者

新年が、安心安寧な1年となりますことを願います。そのためには危機に強い社会を皆で築いていくことが重要となります。近年は、気候変動の影響か、毎年のように日本のどこかで風水害や土砂災害が起きています。また、千年に一度の地震活動期に入っているのではという話もあります。保健医療福祉の領域でも危機対応が重視されだしており、医学生の必須科目にも入るようになってきました。
突発的な災害が生じると、救急医療対応体制の確保や生活インフラ整備の急速な展開が求められます。が、まずもって身の回りの生活環境が一気に悪化します。自分たちの命を守る行動の後には、衛生的な環境の整備、感染症の予防・対策、避難所の設営や運営、要配慮者のケア、生活不活発病の予防など課題が山積してきます。これらの課題には公衆衛生的なアプローチが多様な側面で功を奏しますが、保健医療福祉の関係者のみならず、誰でも身に付けておくべき知識やスキルが多くあります。身の回りで協力し合うことも重要です。これらの力を身に付ける機会を社会でふんだんに増やしていくことが望まれます。
そして、何よりも、これらのような危機対応力を高める取り組みは、人々のセルフケアや協働する力を高めていくことにもなり、普段からの健康な生活や安心安寧の社会づくりにずばりつながっていきます。
その上、世界保健機関(WHO)は、健康危機対応のサイクルに1ドルを投資するごとに8ドル以上のリターンが得られると推定しています。危機の備えへの投資は、人々の命を救うのみならず、社会や経済を守ることにもつながるのです。
以上を背景に、京都大では、健康危機対応の課題解決のために部門を超えて全学的に知と技術が集うプラットフォームとして「ヘルスセキュリティセンター」を立ち上げました。ヘルスセキュリティーとはさまざまな危機から健康を守ることを意味します。そのために医学研究科・病院(臨床・基礎・社会医学)、防災研究所、法学研究科、経済研究所、人と社会の未来研究院、医生物学研究所などが連携、協働し、国内外の政策・実践・教育研究機関とも人事交流・協働を強化し、研究、人材育成、実践・政策への貢献を行っていきます。そして、健康危機への緊急対応、短中期的対応、復興の推進、備えの強化というサイクルに一貫して取り組み、研究、人材育成、実践・政策への貢献を通して、危機に強い社会づくりを目指していきます。

◉いまなか・ゆういち
1961年生まれ。京都大大学院医学研究科教授、同研究科ヘルスセキュリティセンター長。健康・医療システムの研究に従事。医療の質・安全の国際学士院(International Academy of Quality and Safety in Health Care)の生涯メンバーにアジアから初選出(2018年)、日本医師会医学賞受賞(22年)。日本医療病院・管理学会理事長、社会医学系専門医協会理事長。