文化がつくる未来
- 2025元日 文化人メッセージ -
古典的日本美術から見いだした
「超主観空間」の芸術
猪子寿之
アート集団チームラボ代表
私が10代の頃、故郷の山中で感動した景色をカメラで撮影した時、実際の体験と大きく異なることや、テレビや映画の世界が、自身の身体的存在と隔絶していると感じることに興味がありました。2001年に、多様な専門家による知の集団的実験の場として、チームラボを始めました。その頃から、写真や動画、つまり、レンズで世界を切り取ると、レンズの論理構造上、その切り取った世界が画面の向う側に生まれ、画面が境界になり、視点が固定され、身体とは切り離された世界になることに気が付きました。
そのため、レンズとは違い、境界が生まれず、視点が固定されない空間認識の論理構造を模索し始めました。そしてそのヒントを、日本の古典絵画に求め、京都に通い、お寺をはじめ、歴史的な空間の中で、古典絵画やお庭を見て回り始めたのです。その中で、日本美術とは、歩きながら体験していく身体的な、空間芸術だと気が付いたのです。これは、映画やテレビをはじめ、近代に中心となった、身体を捨てさせられたコンテンツとは大きく異なります。
古典絵画の空間認識をヒントに、レンズとは違い、画面が境界とならず、なおかつ、視点が固定されない空間認識の論理構造を模索し、構築し、それを「超主観空間」と名付けました。そして、超主観空間の論理構造でインタラクティブな作品をつくり、来場者の身体がある世界と、作品世界に境界が生まれず、まるで、作品世界の中に自分の身体がある体験をつくりました。そして、その身体が動的、つまり歩きながら体験する、身体的な空間芸術をつくってきました。
大変光栄なことに、25年度中に京都に、チームラボのミュージアムがオープン予定です。私たちにとって、長い歴史を通して文化が積み重なり、今もなお色濃く残る京都で、ミュージアムをオープンすることは、とても意味があると考えています。伝統的な日本美術、空間芸術の連続性の上に、私たちの作品もあるからです。そして、京都にあるからこそ、街全体で、現代と、現代に連続する過去が行き来できると思うのです。そして、西洋や近代とは違った、特異に発達した文化であるが故に、世界から見るとまだまだ理解されきれていない伝統的な日本美術や空間芸術への興味や、より深い理解へのきっかけの一つになるような場にしていきたいと思っています。
◉いのこ・としゆき
1977年徳島市生まれ。2001年東京大工学部計数工学科卒業、チームラボとして活動開始。集団的創造によって、アート、サイエンス、テクノロジー、そして自然界の交差点を模索している。ジッダ、東京、マカオ、北京、シンガポールなど世界各地でミュージアムを開館。25年京都とアブダビにオープン予定。