賛同企業代表者 文化人 特集・未来へ受け継ぐ
経済面コラム

思い描く、未来

- 2026元日 文化人メッセージ -

井上勝裕

不易流行 
家業の伝承、伝統への挑戦

井上勝裕
造園家

京都という土地には、不思議な時の流れがある。千年を超える文化が息づく街で、私たち造園家が向き合うのは常に今という時と、その先にある未来だ。どんな景色を思い描き庭をつくっているのか、次の世代へ何を手渡していけるのか。そんな問いを胸に日々庭と向き合っている。
植芳造園の記録には、1820(文政3)年に庭仕事を手掛けたとある。もちろんそれ以前から庭づくりに携わっていたはずで、京都の地で200年以上代々に渡り家業としての技と心の精神を受け継いできた。今も、私が作庭に取り組む礎である。伝統の持ち味を大切にしながらも、時代、社会が求める新たな様式美の創出に応えるための創意は欠かせない。その姿勢は今も昔も変わらない。
「庭屋一如(ていおくいちにょ)」、その意は建物が立派すぎても、庭が立派すぎても駄目だ。敷地全体を踏まえ、建築と庭園が調和された空間こそ豊かで美しく快適な暮らしの場のあるべき姿である。
今の時代、生活様式、建築様式も従来の低層住宅から高層住宅へと変化し、それに伴い造園においても単なる外構の緑化が目的化している。緑化は手段であり目的ではない。造園家の仕事は自然の石や樹木を用いて、美しい空間を創造することである。日々、命ある自然の素材と向き合い対話し、数センチの位置や角度にこだわり、その一つ一つの積み重ねが美しい景の創出につながる。作庭家自ら図面を描き、素材を選び自社の職人集団を率いて呼吸を合わせ、作庭に取り組む。この伝統は時代が移ろっても揺らぐことはない。とはいえ、設計と施工が分離した現状では難しい。指揮者は作庭家であり図面ではない。作庭に際し、設計三分・現場七分といわれ、設計した作庭者が現場で一つ一つ組み立てることで美しい庭園がつくりあげられる。ゆえに私たちは設計と施工を併せ受注する。それでこそ仕事に責任を持てるからである。
自然の素材を扱う造園において伝統に裏打ちされた構成美を理解し、自らのものとして創作に生かせるかどうかが、未来の庭園文化の伝承を左右することになるだろう。だからこそ、私たちには伝統を守るだけではなく、新たな様式美を生み出す役割がある。
先人が築いた技と心を受け継ぎながら、変わりゆく時代に対応する庭園美の世界を創造すること。それは、伝統の継承であり挑戦でもあり、未来への約束でもある。今を生きる造園家として美しい庭園文化を確かに次世代へと手渡すために、これからも自然と向き合い庭をつくり続けていきたい。

◉いのうえ・かつひろ
1971年京都府生まれ。京都を拠点に活動する造園家。東京農大卒業後、修業を経て植芳造園に入社。国内外で多数の庭園を手掛け、伝統と創造を結ぶ庭づくりを実践し、次世代への継承にも力を注ぐ。京都府「明日の名工」、京都市「未来の名匠」、東京農大「造園大賞」を受賞。NHK海外放送「CORE KYOTO」や同「京コトはじめ」などのメディア出演。

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