賛同企業代表者 文化人 対談シリーズ
経済面コラム

共に変える、共に創る、未来へ

Let’s change our behavior. And create our future.

- 2023元日 文化人メッセージ -

落合陽一

計算機自然と喜びの共有

落合陽一
メディアアーティスト

計算機自然(デジタルネイチャー)は日々その進化速度を増している。
計算機自然とはコンピューター発明以後、質量のないデジタルの自然と元来の自然の相互作用によって生まれた自然を指す言葉であり、自然そのものおよびその自然観を指す際に用いている。
昨年の秋口、「計算機自然と民藝」という展覧会を開いた。計算機があふれ、自然との相互作用を生み出し、その進化速度がもはや人の認知速度よりも大きくなったとき、そこに生まれた新しい自然の上で生まれる民藝とはどのような姿をしているのか、そして精神運動としての民藝運動に学び、人々が美しい品々を喜び合って過ごすために何ができるのか。展覧会のステートメントには以下のように書いた。「自然は生物という計算機を作り出した。生物のあふれる元来の自然は、知的な創発の歓びに満たされている。自然はやがて人を作り出した。人はやがて人工計算機を作り出した。人にとっての母なる元来の自然は、もはや子なる計算機と区別がつかない。人と計算機の接続によって生まれた、計算機自然は人の知的プロセスを超え、日々その発酵・醸成速度を増している。人か機械かではない。新しいかどうかを気にする暇もない。一瞬一瞬は常に未知の冒険であり、感動や歓びを共有できる。日常に宿る尋常の美を大切にしよう」。
光の速度で変化するデジタルネイチャーに対峙すると人間の実存の問題は計算機に吸収されていってしまう。
2022年は「AGI(汎用人工知能)元年」とも言うべき日進月歩が計算機科学の分野では見られたが、23年、その速度はさらに加速すると予想される。そこで賢さや処理能力、創造性に依存せずに日々生きていく喜びに浸るため、近頃頻繁に用いているフレーズがある。「その喜びを分かち合おう! 感動できる! ありがとう! 君が好きだ! 同じ時代を生きていることがうれしい!」というものだ。
2023年、共感と喜びだけが残り、歴史も時代も知的な認識は実存的な意味を持たず超えて濁流に包まれていく。そんな中、尋常の美の中に酒を酌み交わし、合理的な問題のみに頭を縛られず、処理能力や現状認識能力の差異を比べず、質量ある身体を愛で、ときに計算機自然とつながる喜びに浸っていきたいと私は考えている。
25年の万博やその先の社会に向けて、われわれは自然観や人間観を更新し、伝統的価値観の中で磨かれた「いのちの輝き」を拾い集めていく行為を通じて日々の喜びを共有していきたい。

◉おちあい・よういち
1987年生まれ。東京大大学院学際情報学府博士課程修了。筑波大デジタルネイチャー開発研究センター長、准教授。大阪・関西万博テーマ事業プロデューサー、京都市立芸術大客員教授。