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経済面コラム

文化がつくる未来

- 2025元日 文化人メッセージ -

アイシュワリヤ・スガンディ

故郷の誇り
京都の街、人に学ぶ

アイシュワリヤ・スガンディ
歴史学者

私の古里はインド・ムンバイです。インドはポルトガルやイギリスに長く植民地支配されました。彼らの書物の中で古里がどう描かれ、インドやインド人のイメージが形成されたのか、他者が人を描くというのはどういう行為なのか、とても関心がありました。
そこで、カトリックのイエズス会に興味を持ちました。彼らは常に、宣教に訪れた国の報告を残しています。日本についても細かく記録しており、西洋で日本のイメージが形成される一つの要因になりました。
京都にはキリスト教の史跡が数多く残っています。同志社大や各地の教会、キリシタンへの刑罰が行われた一条戻橋、殉教の地となった六条河原など数多いです。
学生たちにはぜひ、そういう史跡を見てほしい。京都は世界の憧れの町ですから、京都で学生生活を送るなら、町の素晴らしさを実感してほしいです。
京都人はプライドが高く「いけず」だと言われますが、それには理由があるはずです。日本ではすべてに理由があります。菓子袋一つ取っても簡単に開けられるように小さな切り込みがあるなど日本人の細やかで、人を幸せにできるおもてなしは目に見えないところにも潜んでいます。その極みが京都にある。京都人がプライドを持つ理由を学び、そこから、自分の故郷への誇りを学んでほしいですね。
日本に来て25年になります。私は日本に対するパッション(情熱)があり、いろんなことに興味を持ちました。書道もその一つ。日本のお正月には書き初めという習わしがあります。子どもが書いたものを心に刻んで1年を過ごす。それが今は忘れられてる。門松を建てない、しめ縄も飾らない家が増えた。京都人は祇園さんの粽を飾り、花や設えで季節を表す。暦というものは理にかなっていて意味があるのです。それに目を向けてほしいですね。
私は、坂本九さんの「上を向いて歩こう」が大好きです。スマホばかり見て下を向いていないで上を向いて京都の町を見てほしい。真ん中に御所があり、角を曲がれば世界遺産がある。歴史も文化も同時に進行している。京都には人を引き付ける磁石があります。
16世紀のイギリス人旅行家トーマス・コリヤットはヨーロッパから3年間かけて徒歩でインドを訪れました。町を歩いて、じっくりと「咀嚼」する、味わうことが大切なんです。それは自分の血肉となる。
鴨川沿いでゆったりと時間を過ごして、御所あたりに桜を見に行く。京都はそういう機会を存分に提供してくれます。

◉アイシュワリヤ・スガンディ
インド・ムンバイ生まれ。京都外国語大外国語学部准教授。2014年京都大大学院人間・環境学研究科博士後期課程修了。博士(人間・環境学)。16世紀後半のイギリス人による東方世界への旅行およびその旅行記を研究対象とする。近年はより広く東西交流史を理解するべく、イエズス会のアジア布教史にも関心を持ち研究を進めている。