本年は「鯉の滝登り」

佐竹力總
株式会社美濃吉 代表取締役会長（10代目当主）

本年は辰年、中国の故事に「登龍門」という言葉があり、その中で、コイが滝を登り龍になったと伝わります。
海から遠く離れた京都では古来より川魚が貴重な食材でした。特に「鯉の滝登り」のコイは出世魚の代表として美濃吉の膳に上がる川魚の中でもウナギ、アユ、スッポンに並ぶ代表的な食材で、鯉濃汁、コイの洗い、コイの飴炊きなどの逸品があります。コイはビタミンB1やタンパク質を多く含み、産後は鯉濃汁を食べると母乳の出が良くなるという言い伝えもあります。今年は龍、ひいてはコイにちなんだ縁起の良い年なので、これをきっかけに川魚料理をたくさん召し上がって元気をつけていただきたく存じます。
美濃吉はおかげさまで今年創業307年を迎えますが、江戸時代に京都所司代より川魚生洲八軒のうちの一軒として、今日まで商いをさせていただいております。
日本の食文化がユネスコ世界遺産に登録され10年、世界各地で日本食を提供する店が急増しております。しかし急激なライフスタイルの変化に伴い日本人の食生活の洋風化に歯止めがかかりません。本年も美濃吉は、急流に挑むコイのごとく川魚料理を中心に京料理の真髄を伝え、日本の食文化のさらなる発展に取り組み、「本物であり、本流を歩み、本筋を貫く」をモットーに、改めて気を引き締めて歩んでまいります。