賛同企業代表者 文化人 対談シリーズ
経済面コラム

日々の暮らしに「善」を追求し、自らの意志で生きる時代へ

- 2024元日 賛同企業代表者メッセージ -

澤田昌人

伝統文化の深淵から
世界の理解へ

澤田昌人
京都精華大学 学長

京都で過ごした学生時代の一時期、謡と仕舞の稽古をしていました。大した進歩もなかったのですが、能楽師や囃子方の技に触れることができたのは幸せな経験でした。
忘れられない舞台の一つに、何十年も稽古を続けてきたある素人女性の仕舞があります。曲名はもう覚えていないのですが、舞う姿を見ていると、その女性が生まれてから現在の老年に至るまでの楚々とした生きざまが伝わってきました。そして彼女の人生を支えてきた静謐な時空が直観されて深く感動したことを覚えています。伝統の底知れぬ深みを思い知りました。
その後、研究でアフリカの熱帯林を訪れた時、「ピグミー」と呼ばれる人々の歌と踊りに触れることがありました。濃密なポリフォニー(多声音楽)に身も心も任せていると、喜怒哀楽や生死を超えた彼らの世界観が音の向こうから伝わってくるような感覚を持ち、畏怖を覚えました。
仕舞が表現する人間の深淵に触れ、畏れを抱く経験を持ったが故に、私はピグミーの歌と踊りが表現する感動のその先の世界を感じ取り、敬意を抱くことができたのだと思っています。
京都には安易な理解を拒むほどの深い文化的な伝統があります。それを経験することは、自文化だけではなく異文化への敬意、そして人間全体への敬意を育むことにつながることを私は信じています。

京都精華大学

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