日々の暮らしに「善」を追求し、自らの意志で生きる時代へ
- 2024元日 賛同企業代表者メッセージ -
時間と創造力
吉川左紀子
京都芸術大学 学長
インターネットでの情報検索が毎日の生活に欠かせないようになって久しい。世界中から送られる情報がネット上を飛び交い、短いキーワードを入力するだけで、遠い場所で起こっている出来事も、遠い過去の出来事も、瞬時に目の前に現れるのが当たり前になった。ネットの世界では、空間を移動する時間や思い出す時間は限りなく節約される。現代は「時間がかからないことに価値を置く時代」と言えるのかもしれない。
一方、芸術大学での学びの本質は、時間をかけることにある。時間の節約ではなく、時間を豊かにするために何ができるのか。
本学では創設以来、芸術の基礎教育の中で、能・狂言、歌舞伎といった伝統芸能に触れる機会を積極的に取り入れ、歴史の中で育まれてきた芸術文化を学ぶ機会を大切にしてきた。その学びは、過去に生きた人たちの暮らしや喜怒哀楽に思いを巡らし、その心の世界を共有する時間の中にある。また、絵を描き、陶器を作り、織物を織るといったことから、モニター画面の中でデザインし設計して作品に仕上げることまで、すべて時間のかかる作業であり、創造する力はその時間の中で育まれる。
先端の人工知能の「賢さ」に驚かされながら、改めて人間らしさとは何か、人が自らの手で創り出す芸術の価値とは何かを考える日々である。
京都芸術大学
京都市左京区北白川瓜生山2-116
Tel.075-791-7134
https://www.kyoto-art.ac.jp/