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未来へ受け継ぐ Things to inherit to the future【2023年第4回】

京都から新しい暮らしを提言し、発信するキャンペーン企画「日本人の忘れもの知恵会議」。教育者で空間人類学者のウスビ・サコさんをホストに迎えた対談シリーズ第4回は、京都出身で京都で活動を続ける映画監督馬杉雅喜さんと府立城南菱創高(宇治市)で教養科学科2年生約80人を前に、地域の活性化と映像の力をテーマに語り合った。コーディネーターは京都新聞総合研究所の北村哲夫が務めた。

未来へ受け継ぐ Things to inherit to the future【2023年第4回】


■対談
地域の活性化と映像の力

人と関わりたい欲求、誰にでも
ウスビ・サコ氏(教育者、空間人類学者)

「笠置ROCK!」まとまる土台に
馬杉雅喜氏(映画監督)

 

サコ◉馬杉さんの作品は、それぞれの時代の出来事や社会的課題を題材にしていますね。
馬杉◉2011年に東日本大震災があり、被災地の福島や岩手で100日ほど生活し、中学生が自分たちに何ができるかを模索する様子を追ったドキュメンタリーを制作したのが最初の作品です。初めての劇場公開作品となる『笠置ROCK(ロック)!』(2017年)は京都府笠置町を舞台に、岩や人工の壁面を登るスポーツであるボルダリングに取り組む3人の若者の姿を描いています。笠置町は、人口約1300人で、西日本で最も人口の少ない町です。この映画の企画には、過疎化が進む町のコミュニティーを再生しようというコンセプトもありましたので、町民に出演してもらい、町内各地で撮影を敢行しました。最新作のドラマ『おやじキャンプ飯』はコロナで店や家を失った中華料理店の店主がキャンプ場で出会った人々に料理を振る舞うという物語です。
サコ◉私の専門は建築ですが、建築を通してコミュニティーのあり方について研究しています。コミュニティーは都市化の進行とともに、利益を重視する関係に変わっていきますが、笠置町のような地域は今も地縁や血縁でつながっている社会です。別の町で、地域の拠点として新しく図書館を整備する事例研究に関わったことがありますが、住民の多くは高齢者が占めていることもあり、図書館への関心は低く、利用者もあまり伸びませんでした。しかし、図書館の一角に銭湯があるとか、囲碁やカラオケができるとなると出掛けると彼らも言います。人と関わりたいという欲求は誰にでもあるような気がします。
馬杉◉『笠置ロック!』の始まりは映画ではなく、笠置町のコマーシャル用映像をつくってほしいという依頼でした。しかし、CMだと少し年月が経過するだけで誰も見向きもしなくなります。当時、いわゆる“ご当地映画”がいくつも制作されていましたが、私は究極のご当地映画を撮ろうと考え、町民に参加を呼びかけました。過疎化が進むと長く同じ地域で暮らしてきた人の間にも溝ができたり、古い住民と移住者、若者と高齢者といった立場の違いによっても関係がぎくしゃくしたりします。映画撮影というのは町民にとって初めての体験ですし、カメラの前では年齢や性別も関係なくなりますので、町が一つにまとまる大きな土台になると思い、CMではなく映画にこだわりました。
サコ◉ある地域の現地調査で高齢住民にインタビューしたとき、その住民は何年も前に撮影した地域の写真を出してきて、「人口も多く、家もたくさんあり、青年団も活発に活動していた」と当時の様子を説明してくれました。写真1枚にも多くの情報が含まれ、記憶もよみがえりますので、映像には大きな力があると感じます。映像を通して、地域に対する愛情が湧いてくることもあるのではないでしょうか。
馬杉◉映像作品はコミュニケーションツールになりますし、何十年後かに子や孫の世代が「おじいちゃん元気だったね」と振り返る記録にもなります。笠置町の人々に『笠置ロック!』は好評で、お盆や正月に子どもや孫が帰省したときや、地域のお祭りやイベントがあるときには繰り返し作品を上映し、みんなで見てくれているそうです。その意味で、私自身、笠置町の文化というか、何か大事な根の部分を残すお手伝いができたのではないかと感じています。
サコ◉最近、コロナ禍という大きな出来事がありました。あの混乱の中で伝えられてきたのは、他人は怖いということだったように思います。誰かと接すれば感染すると、家の中でも不安になってマスクを着用する人たちもいました。社会はコロナによって分断され、まだ本当の意味での再生には至っていません。コロナ禍で大きな影響を受けた人が登場する『おやじキャンプ飯』は動画配信サイトで公開されていますが、新しい媒体を利用したのは若い人たちにも作品を見てほしかったからですか。
馬杉◉このドラマは60歳の男性が主人公ですので、あまり若い人には見てもらえないと思っています。動画配信サイト向けのドラマは、韓国やシンガポールなどのアジア圏で人気が高く、日本でもそのブームが来るのではないかと期待し、作品づくりに取り組みました。映画やドラマでは、どんな人たちに作品を届けるのか、ターゲットが大事だとよく言われますが、私は年齢や性別、好みなどで絞り込まれた不特定多数の人よりも、一人の特定の人物に向けていつも作品を制作しています。『おやじキャンプ飯』は、普段よく利用していた中華料理店が、コロナがまん延している間に突然閉店していたことが作品制作の契機になりました。60歳くらいの店主の心情や境遇に思いを巡らし、もしかしたら店だけでなく家も失い、路頭に迷った末にキャンプ場にたどり着いていたら……と想像して物語をつくり上げました。もしかしたら作品がその店主の目に触れる可能性もあるのではないかと考え、動画配信サイトで公開しました。
サコ◉私もよく通っているお好み焼き屋さんや焼き鳥屋さんがありますが、コロナ禍を経験して、そういったなじみの店は大事にしたいとより強く思うようになりました。自分が住んでいる地域の中に大切にしたい場所や文化がおそらく皆さんにもあるでしょう。地域に対して愛着を持った人でないと、地域を一つにまとめ、町おこしやコミュニティー再生の取り組みを引っ張っていくことはできないでしょう。
馬杉◉東日本大震災当時、中学生だった子どもたちは成長し、都会で就職してばりばり活躍していましたが、最近は地元に戻る人が多いと聞きます。地方で子育てをしたいという希望も強いようですが、仮に震災がなかったとしたら、働き盛りの時期に生まれ育った地域へわざわざ戻らなかったのではないかという気もします。震災があったからこそ、地元への愛情が強くなったのではないでしょうか。私個人の経験では、地元に関心を持つことの重要性を学校で教わったという記憶はありません。しかし、10代の若いうちから自分の住んでいる地域に目を向け、考えるきっかけや時間があれば良かったなと今は感じています。
サコ◉「ふるさと」という言葉は、生まれ育った場所から離れてみないと実感を持たない言葉だと思います。原風景のようなものが無意識の中に残っていて、ふるさとから離れて別の場所に移ると、それが記憶として明確なものになります。私は大学生たちにも日本を離れなさいとよく言います。日本を離れると良いところも悪いところも含めて日本らしさというものがはっきり見えてくるでしょう。これは自分を知る機会でもあります。自分を知り、自分と向き合うことで、他者を受け入れることにもつながるはずです。
馬杉◉地域の活性化は「何とかしましょうよ」という掛け声だけでは進みませんし、住民も一つにまとまることはできません。地域が活性化したらこうなるという具体的なビジョンを見せないと人は動かないと思います。『笠置ロック!』の劇中では、開催が途絶えていたお祭りを復活させたり、住民があったらいいなと思う架空の店を登場させたりしました。その後、実際に地域ではお祭りが復活したり、お店が新たに開店したりしたそうです。笠置町での映画撮影を通して、住民が同じ方向を向くというきっかけづくりや、町のポジティブな未来像の提案はできたのかなと思います。


■質疑

―過疎化の要因の一つに産業の衰退があるように思います。地域の産業再生にはどのような方法が考えられるのでしょうか。
馬杉◉私は1万人に1回見てもらうよりも、10人の熱烈なファンをつくって、そこから支持してくれる人を増やしていく方が強いと考えています。産業も同じで、具体的に顔が浮かぶ顧客10人に対して、しっかり製品やサービスが届けられれば、そこからビジネスとして広がりが出てくるのではないでしょうか。

―映画のように大きなプロジェクトに取り組むとき、どのようにして不安な気持ちに打ち勝ったり、自分の意志を強く持ったりしているのでしょうか。
馬杉◉毎回借金をしながら仲間と資金を集めて作品づくりを続けていますので、正常ではない精神でギャンブルをやっているような状況です。毎日逃げたいと考えていますので、今ここで何も格好の良いことは言えません。ただ、『笠置ロック!』のときは、誰からも協力を得られなくても、たとえ自分一人になってもやり切るという覚悟で撮影をしていました。これまでの経験上、覚悟を決め、腹が据わっているときはうまくいくと思います。

―映画監督になって良かったことはありますか。
馬杉◉映画好きの兄の影響で、子どものころに『ショーシャンクの空に』という米国映画を見ました。日本とは全く違う国で、全く違う文化の人が撮っている作品なのに、こんなに心が揺さぶられるのかと衝撃を受け、映画監督を志しました。映画監督になって良かったことは、親が喜んでくれていることぐらいでしょうか。
サコ◉自分の将来の道を選ぶとき、好きなことを決め手にするべきです。それが決して得意でなくても、好きであれば自分で考え、何とかしようという意志が生まれます。コロナ禍という答えを見いだしにくい現象を経験し、ますます自分で問いを立て、問題意識を持って考えるということが大事になるでしょう。

対談風景


◎馬杉雅喜(ますぎ・まさよし)
1983年京都生まれ。東日本大震災のドキュメンタリーなどを手がけ、2017年に初の映画監督作品「笠置ROCK!」を公開。20年からYouTubeで「おやじキャンプ飯」を発表。

◎ウスビ・サコ
1966年アフリカ・マリ共和国生まれ。中国留学を経て京都大工学研究科へ。京都の住まいなど研究。2018年4月~22年3月京都精華大学長。25年関西万博の開催準備にも関わる。