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未来へ受け継ぐ Things to inherit to the future【2022年第5回】

やなぎみわさんをホストに迎えたキャンペーン企画「日本人の忘れもの知恵会議」2022年度対談シリーズ第5回は、京都外国語大に在学中、西陣の産業廃棄物を活用して装飾品作りを進める事業を始めた宮武愛海さんを招き、「京都の伝統産業と環境問題」などを語り合った。対談は、2022年7月22日に京都外国語大(京都市右京区)で収録した。コーディネーターは、京都新聞総合研究所特別編集委員の内田孝が務めた。

未来へ受け継ぐ Things to inherit to the future【2022年第5回】


■対談
京都の伝統産業と環境問題

手かけ染め直し 意識変わった
やなぎみわ氏(美術作家/舞台演出家)

端切れで装飾品 再利用訴え
宮武愛海氏(sampai代表)

 

―アクセサリーブランド「sampai(サンパイ)」について、起業のきっかけや事業内容をお話しください。
宮武◉西陣織の製造業者や工房が廃棄していた絹糸、帯の端切れを再利用してアクセサリーを製作・販売する事業です。京都外大生の頃、西陣で学生向けのビジネスコンテストを立ち上げる活動に参加していました。私は活動終了後も西陣の事業者と接点を持ち続けたいと思い、よく西陣織の工房に遊びに行っていました。あるとき、工房のごみ箱に端切れや糸が捨ててあるのを見て、何かに使えるのではないかと感じたのが事業を始めるきっかけです。
やなぎ◉ブランドを始めたのは何年生の時ですか。
宮武◉4年生の春です。すでにコロナ禍の真っ最中。マスク作りを考えましたが、生地の性質や特徴が一点一点異なり、店頭価格の設定も難しいのです。一点ものを作ることができるハンドメイドアクセサリーの方が適していると判断し、方向転換しました。伝統産業の製作工程は作り手の顔が見えやすく、廃棄物を再利用する意義やプロセスを考えてもらいやすいのではないかとも考えました。個人事業でスタートしたのが2021年6月で、外大は22年3月に卒業しました。
やなぎ◉「sampai」というブランド名は、かなりダイレクトですね。
宮武◉もちろん「産業廃棄物(産廃)」に由来しますが、綴りに「n」ではなく、「m」を用いたのも理由があります。私のルーツは日本とインドネシアの両国にあり、「sampai」はインドネシア語の前置詞。「〜まで」「届く」という意味の言葉です。捨てる予定だったものが、消費者の手に再び届くとの思いも込めました。
やなぎ◉私は京都市立芸術大で染織を専攻し、京友禅の製造会社でアルバイトもしていました。当時はバブル経済期で、着物もよく売れていました。リサイクルを進め、産業廃棄物を減らすという問題意識は、アルバイト先の企業も私も全く持たない時代でした。
宮武◉西陣織には図案づくりや糸染め、製織など約20工程あります。私が伝統工芸にこだわるのは、多数の工程を分業制で担い、完成までに多くの人が関わるからです。若い世代に伝統工芸の特色や魅力を発信することで、自分が着ているTシャツや日頃食べている野菜にも作り手がおり、多くのコストや手間暇をかけて生産されている現実に目を向けてほしいと願っています。
廃棄物の再利用は、企業内の改革にもつながります。製造現場で生じる「織り損じ」はかなりのコストアップになります。ただ、織り損じをしないようにと、職人に厳しく要求すると離職が生じることもありますし、人材の確保も難しくなります。織り損じを入れる箱を職場に一つ置くだけで職人のコスト意識が上がり、仕事の仕方を見直すきっかけにもなります。
やなぎ◉「sampai」では対面での販売を重視していますね。
宮武◉使用する素材の紹介文などを載せたリーフレットを付けて商品を販売していますし、リーフレットの制作や取材に携わったメンバーも店頭に立ち、接客もします。顧客と対話することで、メンバーはさらに詳しく取材をしようという気持ちになり、伝統産業や地域に対する理解も深まっているようです。また、アクセサリーを製作するワークショップも随時開催しており、メンバーも参加者と一緒に手を動かしています。
やなぎ◉私は学生時代、糊(のり)や染料を手に入れるために京都の町を巡りました。店の人と立ち話をして、着物を染める際に使う伊勢型紙の話に聞き入ったことを覚えています。そこからさらに、糊や染料、型紙など原料を生産している現場にも足を運んで見せてもらえばよかったと、今でも心残りです。
宮武◉プロダクトデザインを担当しているメンバーは「sampai」に参加した結果、「元からあるものを、自分らしくデザインする発想を大事にするようになった」と言います。美大生やアパレル分野の若いデザイナーにも魅力ある素材を紹介し、創作活動を素材からスタートさせる機会を提供したいとも考えています。

伝統工芸の製造過程で出た廃棄物をデザインしたアクセサリー類。ネット販売は行わず、対面販売で再利用の大切さも説明している

伝統工芸の製造過程で出た廃棄物をデザインしたアクセサリー類。
ネット販売は行わず、対面販売で再利用の大切さも説明している

やなぎ◉最近、高齢者が亡くなると、家族は着物を持て余し、結局は使わないで捨てるケースが多くなっています。
宮武◉最近はレンタル着物や着物リメイクなど、活用の道は広がっています。ただ、絹で作った着物は洗濯が難しいのがネックです。古い着物にも、現代の若者がかわいいと感じる柄もありますが、レンタル後の洗濯も含めると、若者が借りやすい価格では厳しい現状があります。
やなぎ◉私の家のたんすにも3代くらい前から受け継いできた着物があります。職人がどれだけ労力をかけて誂(あつら)えたかを知っているので、捨てられません。最近、昔、自分で購入した洋服を専門業者に依頼して染め直しました。染め屋さんとやり取りしながら、その服に「手をかけた」ことで意識が変わりました。ここ20年ほど、衣類の過剰供給が常態化していますが、そろそろ変化が訪れるのではないかと思います。
宮武◉洋服や着物には染め直してもう一度着る楽しみがあります。京都は土地柄、染色業者も多いですし、染め直しを引き受けてくれる業者も増えています。記憶や思い出をつなぐーではないですけど、母親の世代に流行した服を今の時代にマッチした色に変えて着ることがおしゃれ。そんな生き方がかっこいいと言われるようなトレンドや風潮を生み出したいという思いは強く持っています。

ジェンダーバランス課題 (やなぎ氏)

事業は自己表現ととらえる (宮武氏)

―宮武さんは女性起業家として注目を集めるのは、複雑な思いがあるそうです。やなぎさんも「女流作家」と呼ばれたことには抵抗があった、と聞きました。
やなぎ◉「女流」は、早晩、消滅する言葉だと思います。私は現代美術分野の作家なのであまり嫌な経験はしていませんが、日本の美術館では、やっとここ2、3年で女性館長が急に増えました。アジアの中でも随分遅れています。女性の舞台監督の数も少なすぎますね。
宮武◉メディアでの「女性起業家」という取り上げ方もそうですし、男性の先輩経営者からは「パワフルな女の子」と見られることがよくあります。注目してもらいやすいという利点もありますが、これを素直には受け入れがたい気持ちがあります。私は事業を自己表現だと捉えています。私個人に対する周囲の勝手なレッテル貼りが、「あの子みたいにパワフルじゃないから」と、想いがあってこれから挑戦する人の妨げになってしまうのではないかという不安があります。そういったレッテル貼りにどう対応すればいいのでしょうか。
やなぎ◉パワフルなところが魅力だからこそ、レッテルを貼ってくれている部分もあるのではないでしょうか。その意味では、レッテルも強みかもしれません。芸術作品や作家も、分かりやすい解説や、レッテルを貼られることはしょっちゅうありますが、まずはそれに騙されて深みにハマっていただくのを願っています(笑)。
宮武◉私は教養があるとか、勉学ができるとか、いい家庭に育ったとか、そういうタイプでは全くありません。どちらかというと家の経済状況は楽ではありませんでした。しかし、そういった幼少期の経験も現在では糧となっています。こんな私でも起業することができたのだから、育った環境や周囲の反対に諦めることなく「自分にもできるのではないか」と皆さんも第一歩を踏み出してほしいと期待しています。


■質疑

京都外大生◉「sampai」事業を着想したとき、ひとりで考えたのでしょうか。
宮武◉私とプロダクトデザイナーとの共同作業です。デザイナーには作りたいものから発想して必要な素材を見つけるのではなく、この廃棄物という素材から売れる商品を考えてほしいと話し合いを重ねました。端材のサイズから意匠を考えたり、街中のショップを巡ってアイデアを具体化したりしました。

京都外大生◉今後、宮武さんが挑戦したいことは何ですか。
宮武◉海外に行きたい気持ちがないわけではありません。日本の伝統産業の事業者で、海外と連携している企業があればタイアップしたいという希望も持っています。現在、アフリカの伝統工芸であるアフリカンバティックの製作技術と京友禅の染織技術を融合させたアパレル商品を扱う企業と提携していますので、「sampai」ではアフリカと京友禅の素材の提供を受けています。インドネシアとの関わりはこれから模索していくつもりです。海外にいても、京都の企業や工房をサポートできるように、オンラインを活用した仕組みを構築するのも課題です。それが構築できれば、京都以外の地域の伝統産業の活性化にも貢献していきたいと考えています。

京都外大生◉最近、京都で注目する取り組みや動きはありますか。
やなぎ◉京都市南区の劇場「THEATRE E9 KYOTO」は2019年にオープンしました。京都市内のいわゆる「小劇場」が相次いで閉館した事態を受け、地域で活動する劇団や若いパフォーマーのための発表の場を確保しようと、地域の演劇・舞台芸術関係者が民間の寄付を募って立ち上げた施設です。個人事業主や起業家らが事務所として利用するコワーキングスペースやカフェも併設しており、その利用者と一緒にワークショップを重ね、舞台作品を制作する試みも行っています。

対談風景

宮武愛海さん、やなぎみわさんの対談。学生たちが熱心に耳を傾けた
(2022年7月22日、京都市右京区・京都外国語大)


◎宮武愛海(みやたけ・まなみ)
1998年生まれ。京都外国語大国際貢献学部グローバルスタディーズ学科に在学中に起業。西陣織などの産廃をアクセサリーに製品化する事業を開始。2022年に卒業。

◎やなぎみわ
1967年生まれ。京都市立芸術大で染織専攻。昨年末の台湾など、国内外でメッセージ性のある舞台公演を手掛ける。毎年夏に福島県を訪れ、果樹園で撮影した動画で作品を制作。