新たな暮らしの実践へ
Practice of new life
- 2022元日 文化人メッセージ -
医療に従事することの誇りと役割
守上佳樹
医師
「50代男性、一人暮らし、呼吸数50、酸素飽和度70%、意識不明瞭」
すぐに酸素投与と薬剤投与を行い、救急車に同乗して、辛うじて命を救えた。これが自宅療養中の患者の元にKISA2(きさつ)隊の一員として緊急出動したときの状況だ。数時間遅れていれば命はなかっただろう。昨年は緊迫した状況に幾度も遭遇した。
人の健康と命を守るのが医療だ。健康なときには水や空気のような存在で気にならないが、病気や事故となると何物にも代え難い存在となる。通常ならば病気や事故は一人一人個々ばらばらに直面するのだが、新型コロナウイルス感染症はその認識を一変させた。一人一人どころか国の枠を超えて、一瞬にして全世界を恐怖のるつぼへと導いた。
昨年はわが国の医療従事者にとって未曽有の試練の年だった。冒頭の自宅療養患者と同様に、たくさんの人が苦しみ、亡くなり、悲しい思いをした。患者や家族に寄り添う私たち医療従事者もまた、患者を助ける手段も限られ、自分たちだけでは立ち向かえない危機的な状況に混迷し、心が折れそうになることを幾度も経験させられた。
私は在宅医療に従事する開業医だ。だから、いち早く新型コロナウイルス感染症に罹患しても病院へ入院できない患者さんへの訪問診療を始めたのだが、感染リスクを伴うウイルス感染症だけに行政との連携が欠かせない。そのようなときに京都では、日本で初めて行政とタイアップした新型コロナウイルス感染者に対する専門の自宅療養フォローアップチームを立ち上げた。その名も「KISA2隊」と呼んでいる。
ともすれば排他的で敷居が高いと言われ、他府県からは動きが遅いと揶揄されることもある京都だが、どこよりも先んじて超法人、超組織の医療集団を迅速に構成して、他の自治体が目を見張るような動きを見せた。その結果、関西では重要な役目を担い、その活動は近隣地区にまで波及している。
コロナ禍は絶望と悲嘆をもたらしただけではなかった。もう一度本当に大切なものを見直す機会を与えてくれた。見返りを求めず真摯に命と健康を守る医療従事者の重要性に国民的規模で光を当ててくれた。
そして私たち医療従事者にとっても、「少し」忘れかけていた医療に従事することの誇りと役割を思い出させてくれた。
それもKISA2隊を組織したことで、コロナ禍のような未曽有の規模での危機に対しては、医療従事者と自治体が連携して立ち向かうことの大切さを教えてくれたように思う。
◉もりかみ・よしき
1980年生まれ。広島大で国語教員免許取得後、金沢医科大へ。卒業後、京都大医学部付属病院老年内科、三菱京都病院総合内科を経て、2017年、西京区に在宅医療専門クリニック「よしき往診クリニック」を開設。コロナ禍を受け、21年2月、訪問診療チーム「KISA2隊」を結成。行政と連携し24時間態勢で在宅療養者への往診を行う活動を全国に先駆けて始めた。