新たな暮らしの実践へ
Practice of new life
- 2022元日 文化人メッセージ -
日常の中に受け継がれていく文化
望月麻衣
作家
明けましておめでとうございます。
早いもので私が京都に移り住み、9回目の新年を迎えました。常々お伝えしていることですが、もともと北海道で生まれ育った私にとって、京都は気候も歴史も文化も違っていました。目新しくすてきで面白く、9年たった今も色褪せることはありません。
お正月にお屠蘇を飲み、おせちを食べ、白みそのお雑煮をいただく。
京都の人にとっては毎年の当たり前のような光景も、大晦日におせちを食べてしまう(家が多い)北海道から来た私にとっては「これが本来のお正月なんだ」と胸にしみたものです。
近年、祭事の日程を変更しているところは全国各地に多くあります。週末に開催した方が参加しやすいので、合理的と言えるでしょう。ですが京都では違っていました。
昔ながらの日程に従って、祭事などが執り行われています。これには感心しました。また、「地蔵盆」や「十三詣り」といった他の地方にはない祭事にも驚かされました。
特に新鮮だったのは、「十三詣り」。京都では、七五三のさらに先、13歳にも厄払いをするというではありませんか。娘がその年齢だったので、家族で法輪寺へお参りに行き、厄を払ってもらいました。帰りに渡月橋を渡る際、「決して振り向いてはいけない。振り向いたらお寺で授かった知恵を返してしまうことになる」という言い伝えがあると聞いて、なんて面白いのだろうと胸が躍ったものです。
日常の中にも新鮮な風景があります。ささいなことでは、雪深くなる北海道には竹林がないので、はじめは桜並木よりも美しい竹林に感動しましたし、瓦屋根もないので、京都の人たちにはなんでもないであろう普通の瓦屋根を見ては珍しがっていました。またその上に、小さな守り神・鍾馗さんの姿があるのですから、これまた感動です。
夕方になるとあかね色の空にお寺の鐘が響き、神社から太鼓の音が聞こえてくる。暗くなると、当番の人たちが「火の用心」と拍子木を打って回っている。
京都では昔から受け継がれていることが、今も当たり前のように日常に息づいていたのです。
外から来たからこそ思うのかもしれませんが、日本のすてきなところ、少し面白いところも含めて、「日本人が忘れつつあるもの」が今もしっかりと受け継がれているのではないかと感じました。変化は大切なことですが、受け継いでいくというのも同じくらい尊いことです。
京都はこれからも日本人が大切にしてきた文化を継承していってほしいと切に願っております。
◉もちづき・まい
北海道出身、現在は京都府在住。2013年小説投稿サイトエブリスタ主催。第2回電子書籍大賞でデビュー。16年「京都寺町三条のホームズ」が第4回京都本大賞受賞。他「わが家は祇園の拝み屋さん」など京都を舞台にした作品を多く執筆している。