賛同企業代表者 文化人 対談シリーズ
経済面コラム

新たな暮らしの実践へ

Practice of new life

- 2022元日 文化人メッセージ -

松田法子

次なる世界像についての対話

松田法子
都市史・建築史研究者

地震、噴火、台風、海面変動など、地球から人の暮らしへのインパクトの話題が増しています。しかし人間の生活とはそもそも、活動する地球の上に何とか構築されてきたものです。人間が持続可能な未来を検討するならば、地球それ自体の活動と人類の歴史的活動の意味を同時に扱う視点が必要です。
歴史を踏まえて考える、来たるべき新たな社会段階を、19世紀の経済学者カール・マルクスは「生産様式」から、思想家・柄谷行人は「交換様式」から明晰に見通し、提唱しました。ただその検討対象は、主に人間社会の内部に限られていたともいえます。これからは、人類を生んだ圧倒的前提である地球そのものを人間史と一体に捉え、未来を展望していく必要があるでしょう。
近年、仲間たちと「生環境構築史」という活動を始めました。生環境とは、人類が自らの持続的生存のために構築した環境全般のことを指しています。住居、集落、農地、都市、建築などはすべてその具体例です。生環境は、現生人類の誕生後、三つの段階を経て現在に至ると考えました。そして、それらの史的段階を特徴付け、動かすものを構築様式と名付けてみました。
構築様式1とは、地球で発見された構築素材が即地的に用いられる段階、構築2とは、古代文明などに象徴される構築素材の交換と集積段階、そして構築3とは、産業革命以降顕著になった、地球を産業の消費資源とみなす段階です。構築様式3は、人間の生環境を地球から自律させようともします。
しかし、その構築3世界にも存在し続けるのが、地球自身の構築活動です。それは人間世界が存在する絶対的前提としての構築様式「0」なのです。
地球の運動は人間活動に先行し、人間社会はいつでもその地球活動に生かされ、衝撃を受けながら継続されてきました。近現代の人間は、自らの生産活動の発展に向かって地球上のあらゆるものを商品化し、対象との循環的な関係に必要な時間を置き去りにして蕩尽してきましたが、私たちはもはや、そうした人間像を脱却すべきでしょう。
今年は去年よりも、来年は今年よりも、ますます大きく成長・発展しようという右肩上がりの経済観は、近代西洋の一部というごく限られた地域と時代に端を発する思考でもあります。
四つの大陸・海洋プレートが集合し、多様な地質と地形、気象が文化を形づくるこの列島を出発点に、深く考え、発信する未来像はあるはずです。
地球の活動と共にある、人間の次なる世界像について対話を重ねながら、京都をはじめ具体的で個別の土地を足掛かりに、今年もその方法論を検証してみたいと考えています。

◉まつだ・のりこ
1978年生まれ。京都府立大准教授。専門は建築史・都市史。京都府立大大学院博士後期課程修了後、東京大工学系研究科などを経て現職。土地と人との関わりに関心を持つ。著書に「絵はがきの別府」(単著)「危機と都市」(共編著)「変容する都市のゆくえ」「世界建築史15講」(共著)など。