賛同企業代表者 文化人 対談シリーズ
経済面コラム

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Practice of new life

- 2022元日 文化人メッセージ -

橋爪紳也

「万博から始まるもの」にこそ着目
昭和100年記念事業を

橋爪紳也
建築史家
都市計画家

大阪湾ベイエリアの夢洲を会場として、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマとする国際博覧会の準備が進められている。国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)の達成に貢献するとともに、経済発展と社会的課題の解決を両立する「Society 5・0」のモデルを示すことが課題となる。
世界的なコロナ禍の経験を経て、誰一人として取り残さない「いのち」の充足を世界に訴求する機会となる。また「新たな生活様式」が求められる中、リアルな集客とサイバー空間を融合した大規模集客イベントの新しい形を示すことが想定される。
2025年の国際博覧会は「大阪・関西万博」を愛称とする。私は誘致の計画立案に関わる中で、大阪だけではなく関西の魅力、とりわけ世界文化遺産に代表される京都の歴史的な文化財の集積や京都の食文化なども訴求するべきだと強調した。
25年に向けて、京都では何をなすべきだろうか。産官学を挙げて開催準備に協力することは当然だが、サイバー空間に魅力的な京都を構築するなど、万博の理念と響き合う独自のプロジェクトを起こしてゆくべきだろう。
また万博が、国際観光の振興に留まることなく、自治体による都市間交流や、ビジネス面での国際交流を活性化する好機であることも意識されてよい。会場では、毎週ナショナルデーが設定され、各国の要人が多く訪問する。万博見学は1日だけだとして、多くの人が日本各地に滞在することになるはずだ。京都にあっても、歴史や文化芸術を主題とした観光集客イベントのほかに、各分野の学術会議、見本市や展覧会を準備することが望まれる。
一方で国際博覧会を一過性のイベントに終わらせず、成果をハードとソフトのレガシーとして、開催地で継承する発想が重要である。
25年は「昭和100年」に当たる。私はこの年次を端緒に、「昭和100年」を記念するプロジェクトを、全国各地で興したいと提言してきた。ちなみに、27年は京都議定書締結30年の節目でもある。例えば25年から28年にかけて、京都の1世紀の歩みを回顧しつつ、「大阪・関西万博」の成果を持続可能な都市づくりに応用する未来志向のプロジェクトを展開することが想定されてよい。
万博開催が私たちの最終目的ではない。「万博から始まるもの」にこそ着目すべきだろう。万博で提示されるアイデアや新技術を生かしたビジネスモデル、さらには従来にないライフスタイルや生活文化などを、レガシーとしていかにして京都に取り込むのかという発想が不可欠である。

◉はしづめ・しんや
1960年大阪市生まれ。大阪府立大研究推進機構特別教授。観光産業戦略研究所所長。京都大工学部建築学科卒、同大学院、大阪大大学院修了。建築史・都市文化論専攻。工学博士。「大京都モダニズム観光」「大大阪モダニズム遊覧」「大阪万博の戦後史」ほか著書多数。日本観光研究学会賞、日本建築学会賞、日本都市計画学会石川賞など受賞。