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Practice of new life
- 2022元日 文化人メッセージ -
伝統工芸は世界の人々の宝
バイメル・スティーブエン
一般社団法人ジャパン・クラフト21代表
50年前、私は工芸にあまりなじみのない米国から日本に来た。アパートの畳、障子、桶、漆の食器、カーテンの組紐、近所の魚屋さんが魚を包んでくれた経木など、身の回りにある手作りの物に感動する毎日だった。
日本の工芸は長い時間をかけて完成され、世界中で愛され続けている。伝統工芸は環境に優しく、用の美によって衣食住の意識と人生の質を高め、意義ある仕事を生み出してきた。日本文化の土台なのだ。しかし、この土台が失われるのではないかと強い不安を感じていた。
工芸は1990年までは繁栄していたが、現在では工芸従事者が2割にまで減っている。輸入品の着物が増える一方、西陣織や染色の職人の仕事はなく、若い大工や左官職人が木組みや土壁を学ぶ機会は非常に限られている。この20年で、漆器や着物の売り上げは7割減った。
いま、われわれは歴史的な岐路に立っている。工芸を再生するか、全滅するのを看過するか。日本の工芸を残したい強い気持ちから3年前に国内外の友達を集め、「ジャパン・クラフト21」というボランティア団体を立ち上げた。
そこでは、まず木組み技術の再生に取り組んだ。京町家の6割がなくなったことを危惧する内藤朋博さん(祗園内藤工務店社長)に出会い、彼と建築関係の仲間8人と共にNPO法人祗匠会(心町家塾)を立ち上げ、若い職人に木組みと土壁作りを教えている。授業料はジャパン・クラフト21の会員からの寄付で賄っている。
昨年は伝統工芸再生コンテストを開催し、150人ほどの応募者から選ばれた卓越した才能、経験と情熱を持つ10人の受賞者のサポートをしている。コンテストの最優秀賞受賞者、京都の堤卓也さんと松山幸子さんは自然豊かな京北で「工藝の森」を運営し、工芸素材を育て、その素材でモノを作り、工芸従事者を支え、住民の工芸への意識を高めるためのエコシステムを作っている。その一環として木製の漆塗りサーフボード制作事業も始めた。
伝統工芸は世界の人々の宝である。工芸の未来は少し明るくなってきた。祗園内藤工務店は京都で久しぶりに本物の町家を新築する! ジャパン・クラフト21の受賞者3人は漆木を植え、組紐作家は素晴らしい内装を手掛けている。若い人たちの中で、藍染めをしたり、国産絹を生産したり、経木を作る動きがある。この春、第2回の伝統工芸再生コンテストも開催予定だ。工芸に関わる方や私たちの活動にご興味のある方と一緒に伝統工芸をもっと元気にしていきたい。
◉バイメル・スティーブエン
米国カリフォルニア州生まれ。カウンセリング心理学専攻修士課程修了。1970年代に初来日。以来日本文化との深い関わりを持つ。92年世界中の人々に日本の工芸と文化を紹介するためツアー会社を設立。2016年「ゴールを達成するためのA to Bセミナー」を開始。18年日本伝統工芸を再生するために「JapanCraft 21」を設立。京都市左京区在住。