賛同企業代表者 文化人 対談シリーズ
経済面コラム

新たな暮らしの実践へ

Practice of new life

- 2022元日 文化人メッセージ -

丹下紘希

自分そのものでいられる社会

丹下紘希
映像作家
ぶどう農家見習い

高校時代は、ひげも生えていたし、髪も長くて、何度も切って来いと言われていた。でも、まぁのらりくらりと僕のせいじゃなく、伸びるひげのせいだとかなんとか適当な言い訳でかわしていた。
ある日、生活指導の先生からついに逃げられず、言い争いになり、「お前は生徒じゃない。生徒であるかどうかは生徒手帳に書いてある、その規則を守れないヤツは学校に来るな!」と言われた。社会の仕組みにぶつかった瞬間。変えられない古い仕組みが目の前に壁のように立ちはだかった。悔しくて初めて生徒手帳の校則を隅から隅まで読んだ。
すると、男子の髪型のところに後ろは詰め襟に付いてはいけない、横は耳に掛かってはいけない、と書いてあるが、前髪についての記述がない。よーし、ならば後ろも横も短くしてやるが、前髪だけは伸ばしたままでいけるやん、と思った。
前髪が長い、しかし、後ろも横も短い、つまり、まるで後ろ前逆の人みたいな不思議な髪型で登校した。顔は「前髪すだれ状態」で隠れている。しかし耳が出て後ろ首も出てる。
ものすごく変。
その髪を見て、生徒指導の先生が飛んできた。「お前なんやそれ!あかん、切れ!」と。
僕は落ち着いて(変な髪型、貞子みたいな前髪のまま)勝ち誇ったように「生徒手帳に書いてあるようにしましたけど、何か?」と言ったらえらいまた怒られた。
「笑えよ。明らかに変やないか。後ろ前逆やで。指差して笑えよ」って思った。でも笑わないでとにかくダメしか言わない。「あーつまらんな。つまらん」つまらなすぎて僕が笑った。
「こっちはあんたの器を測ってんのや。どんくらいの器量か測られてんのやで。変なやつを含むのか、それとも排除して体裁だけ整えるつもりかを突き付けてるんや、こっちは。変なやつは排除、ルール守らないやつは排除って、少しは自分を疑って考えてみろや、その方がおかしいわ、あーおかしいおかしい、笑えてくるわ」みたいな感じで大声で笑ったような気がする。
先生は気持ち悪がって去っていった。
管理は簡単です。決まりを作って守らせればいいのです。対して、自由とはとても面倒くさくて、とにかく時間がかかります。先生、上司や社長、管理する側もされる側も私たち自身がお互いの自由を悩みながら進んでいく、とてつもない努力の日々が自分を大事にすることになるんじゃないでしょうか。
遠回りかもしれないけれど、未来に生きる道。自分そのものでいられる成熟した社会に生きていたい。

◉たんげ・こうき
1968年岐阜県生まれ。東京を拠点にMr.Childrenなど多くのアーティストのミュージックビデオなどを手掛けた。現在は亀岡市在住。無農薬ぶどう農園の見習いとして働く。「戦争のつくりかたアニメーションプロジェクト」「投票所はあっちプロジェクト」発起人。政治のハードルを下げるラジオ「ラジオクライニ」レギュラーなど、活動は映像制作の枠を超える。