賛同企業代表者 文化人 対談シリーズ
経済面コラム

新たな暮らしの実践へ

Practice of new life

- 2022元日 文化人メッセージ -

澤田政明

誰かのためにできること
「恩送り」を伝えたい

澤田政明
認定NPO法人セカンドハーベスト京都
理事長

私は未利用の食品を、市民や企業から寄贈を受け、必要とする福祉施設や団体にお届けする「フードバンク」活動やコロナ禍において生活にお困りの個人に直接お渡しする「フードパントリー(食品庫)」活動などを行っています。フードパントリーでは学生の街・京都ということもあり、一人暮らしの学生からの申し込みがほとんどという時期もありました。
その活動の傍ら小学校から大学まで授業をさせていただく機会があるのですが、その際は昨年大ヒットした映画「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」の話をします。同作品は少年たちと柱と呼ばれる剣士・煉獄が鬼たちと闘うストーリーをメインに進行していきます。
煉獄の母、瑠火が死の病に伏し遺言として残した言葉は、今のコロナ禍で苦しむ日本人や世界中の人々の共感を得たのではないかと思います。瑠火は「なぜ自分が人よりも強く生まれたのか分かりますか」と幼い煉獄に問い、そして「弱き人を助けるためです」と答えます。さらに「生まれついて人よりも多くの才に恵まれた者はその力を世のため、人のために使わねばなりません」と語ります。
フランスで生まれた言葉「ノブレス・オブリージュ」(社会的地位の保持には責任が伴う)が子どもでも理解できるように語られていると感じました。
彼女は「天から賜りし力で人を傷つけること、私腹を肥やすことは許されません」と言います。高い地位や権力がありながらも贈収賄をしている人たちが度々メディアで報道されますが、彼女ならいったい何と言うのでしょう。
そして、「弱き人を助けることは強く生まれた者の責務です。責任を持って果たさなければならない使命なのです、決して忘れることなきように」と息子に語り、煉獄はこの言葉通り責務を全うし、生命を燃やし尽くします。
授業では、誰かのためにできることがあるときには、できることをやってほしいという願いを込めて「もし今、つらい状況にあったとしてもいろいろな支援を使ってまた立ち上がることができたら、そのとき自分が手を差し伸べられるような『恩送り』ができればよいですね」とお伝えしています。
明るい未来が描きにくい世の中で老いや死というものがネガティブに捉えられてしまいがちですが、煉獄は「老いることも死ぬことも人間という儚い生き物の美しさだ」と言います。
「こんな映画が大ヒットする日本って、いいよねぇ」と、暗い未来ばかりではないなと思えます。
本年も「心を燃やせ」と己を叱咤し進んで行こうと思います。

◉さわだ・まさあき
1966年京都市生まれ。会社員として中国に駐在中、自己免疫疾患により腎不全を発症し、帰国。療養を経て、フードバンクや炊き出し活動に関わりはじめる。2015年に京都市伏見区を拠点にフードバンク活動を行う認定NPO法人「セカンドハーベスト京都」を設立。現在、自宅で血液透析を受けながら日中はボランティアのフードバンカーとして活動中。