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- 2022元日 文化人メッセージ -

尼子騒兵衛

真面目で、ちょっとズレている面白さ

尼子騒兵衛
漫画家

3カ月の連載予定で始まった漫画「落第忍者 乱太郎」。結果的に3カ月連載して3カ月休むサイクルで、33年も続いた。 NHKテレビではアニメ「忍たま乱太郎」として放映された。好きな忍者の世界を好きなように描いたら、みなさんに受け入れられたのだ。
ウケを狙ったことはなく、実は子ども向けと意識したこともない。こんなに長期間、「忍たま」を支持してもらえた理由を考えてみた。
プロ野球のオフシーズン、テレビ各局が競って放映する「珍プレー」特番に、笑いのヒントがあると思う。選手たちはみな必死だ。真剣に白球を追い、バットを振る。が、時折、真剣さに反して予想もしない体の動きが生じ、爆笑を誘う結果になる。笑いは、ウケ狙いで笑わせようとする意図のない大真面目な行動と、実際の結果のズレにあるのではないか。
「忍たま」に登場する室町時代の忍者も、実際は生死がかかっているので、みな真剣なはず。誰も笑いが欲しくて動き回っているのではない。真面目で、ちょっとズレているだけだ。
子どもの頃から、大好きな笑いが二つあったのを思い出す。
松竹新喜劇で藤山寛美さん(1929~90年)の髷物と、桂米朝師匠(1925~2015年)の古典落語だ。「地獄八景亡者戯」は、米朝師匠の話芸がさえわたり、全編ギャグといってもよい構成。アホな連中の大真面目な行動が、地獄の鬼をも困らせる筋書きで何回聞いても笑いっぱなしだ。
歴史に注目したきっかけは、 NHK教育テレビの中学生向け番組「わたしたちの歴史」だった。蒙古襲来を扱った回で、モンゴル軍を迎え撃つ武士たちが「ゲリラ作戦を展開した」とのナレーションを耳にして、アナウンサーが鎌倉時代の戦闘に「ゲリラ」という横文字を使ったのが、ツボにはまって、おかしくて、おかしくて。「蒙古襲来絵詞」には、矢を射かけられて血を流す馬にまたがった鎌倉武士が登場する。肥後の御家人・竹崎季長(1246~?)にほれてしまい、いつかは「蒙古襲来」をギャグ漫画にしたいと構想している。
電通関西支社勤務だった1981年、佛教大通信教育課程に進み、88年に卒業した。たまにスクーリングで大学に通い、在学中に連載が始まった。学芸員資格取得であちこちの美術館に実習に通ったのも思い出だ。
コメディーだけれども「忍たま」は、史実に即している。漫画には、子どもが見てもその時代になかったと分かる自動販売機は描いても、江戸時代に流通した小判は登場させない。
流行を追うことなく、今年もまた真面目に漫画を描いていきたいと思う。

◉あまこ・そうべえ
佛教大卒。1986年「落第忍者 乱太郎」の連載を開始(~2019年)。93年にNHKで「忍たま 乱太郎」としてアニメ化され現在も放送中。代表作に、あさひコミックス「落第忍者 乱太郎」全65巻(朝日新聞出版)、幼年童話「らくだいにんじゃらんたろう」シリーズ(ポプラ社)、あさひコミックス「はむこ参る!」(朝日新聞出版)など。