新たな暮らしの実践へ
Practice of new life
- 2022元日 文化人メッセージ -
気候災害の最前線に
今こそ目を向けよう
浅岡美恵
弁護士
昨年10月末から英国グラスゴーで国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26) が開かれ、グラスゴー気候合意と名付けられた約束が採択された。議長国である英国政府肝いりの呼び掛けに招かれてグラスゴーに出かけ、会議場内外の熱気に圧倒された。
COP3から四半世紀が過ぎ、世界は一変した。世界の平均気温は産業革命前から1・1度上昇し、命に危険のある暑さや生活を根こそぎ奪う洪水被害が世界各地で頻発、激甚化し、現在の危険となった。
気候災害の最前線にいる小さな国の政府代表たちはグラスゴーで「2度の気温上昇は死刑宣告」と訴えた。彼らは若く、女性も多い。かつて病をおして街頭に立った公害被害者たちの姿に重なる。だが気候変動の特徴は、脆弱な地域の今の惨状がやがてほとんどの人々のものとなることだ。グラスゴー合意では1・5度に抑えることを、決意をもって追求することを確認した。
菅前首相の「2050年カーボンニュートラル・脱炭素宣言」以来、多くの企業が同様に宣伝している。しかし、これは気温上昇を1・5度に抑えるためのものであること、二酸化炭素は大気中に蓄積され、産業革命以降の総排出量が気温上昇と比例し、今後、排出できる量は世界全体で現在の12年分、日本は数年分しかないこと、これは「残余のカーボンバジェット」と呼ばれ、刻々、減少していること、1・5度に抑えるにはこの10年で排出量を半減させなければならないことは、日本政府やそうした企業から語られることがない。
欧州諸国を中心に、京都議定書の採択を脱温暖化、脱炭素へのシグナルと受け止め、最大の排出源である発電部門で、既に再生可能エネルギーを電力供給の主役に押し上げてきた。その結果、再エネは最も安い電源となり、石炭火力の廃止を進めてきた。例えば英国はこの10年で電力の再エネ比率を43%に高め、石炭火力は23年に廃止する。
こうした世界の流れの中に日本の姿はほとんどない。当分、様子見だという。それどころか、前世紀の延長線で石炭火力を増設し続け、今も建設中で、挙句にアンモニアによる「火力の脱炭素化」を掲げてその延命を図っている。アンモニアは化石燃料由来だ。技術も未完で、何よりも高くつく。しかし、日本はCOP26でアジア諸国にも資金援助付きで同じ道を働きかけ、国内でも電力会社の収入を保証するのだという。さらに問題はこれらをグラスゴー合意と整合的と強弁していることだ。
事の本質に目を背けた弥縫策の先に希望はない。そこに気付かない国民ではないと思いたい。
◉あさおか・みえ
1947年徳島県生まれ。京都大法学部卒。薬害スモンや水俣病訴訟などの弁護や消費者保護活動にあたる。地球温暖化防止に取り組むNPO法人「気候ネットワーク」代表も務める。