新たな暮らしの実践へ
Practice of new life
- 2022元日 賛同企業代表者メッセージ -
「用の美」の豊かさを
楽しむ
吉川左紀子
京都芸術大学 学長
この2年間で会議のための出張が激減し、オンラインの会議を含め、自宅で過ごす時間が長くなった。家での食事も増えたので、時折、棚の奥にしまってあった古い食器を取り出しては、気分を変えて楽しんでいる。
特に愛着があるのは、小さい頃、母が気に入ってしばしば食卓に登場した小鉢だ。厚みのある黒地の陶器で、底には白抜きでシンプルな模様が描かれている。それを見ると、当時の出来事まで思い出されるのが不思議である。この器にかぼちゃの煮付けを盛って、近所の家までお裾分けを持っていくお使いを頼まれた。7歳頃だっただろうか。翌日、器を返してもらいに行くと「かぼちゃもおいしかったけど、この器、すてきね!」とお褒めの言葉をもらった。うれしかった。かぼちゃも、器も、それを用意した母も、お使いをした私も、皆褒めてもらったような誇らしさ。その器を手に取ると、半世紀以上たった今も心がじんわりと温かくなる。
昨年は、民芸の父、柳宗悦の没後60年。京都芸術大学でも教員と学生たちが「新・用の美展」を企画し、ワコールスタディホール京都の白い空間に、日本の工芸の伝統から21世紀の「用の美」をイメージした作品の数々が展示された。
温故知新。私たちの「新たな暮らし」は、古きを楽しむ心から生まれるのではないかと感じている。
京都芸術大学
京都市左京区北白川瓜生山2-116
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