賛同企業代表者 文化人 対談シリーズ
経済面コラム

次世代へ、美しい日本を

Beautiful Japan. To the next generation

- 2021元日 文化人メッセージ -

吉岡更紗

自然の変わらない姿を見つめ直し、
自分と向き合う

吉岡更紗
染色家

新春を迎えると、紅花で和紙や布を染める作業がはじまります。「寒の紅染め」という言葉があるように、冬の寒い時期に行うと、より澄んだ美しい紅色を生み出すことができるため、毎年冬に作業します。 染料となる紅花は7月ごろ黄色い花を咲かせます。一つずつ手で摘み取り、乾燥させて保存しておきます。また、11月中旬ごろになると農家の方から稲わらが届きます。刈り取り後、天日干しされた稲わらを毎日少しずつかまどに入れ燃やし、灰を作ります。この灰に含まれるアルカリが、紅花に含まれるわずかな赤い色素をくみ出します。紅花に含まれる色素は大半が黄色ですが、水に流れやすいので、何度も何度も水を入れ替えながら黄の色素を洗い流していきます。その後、稲わらの灰から作った灰汁の上澄みを入れ、もみ出していくと赤い色素が少しずつ現れます。そうして少しずつ抽出された色素は、その後、輝くような紅色を生み出します。
こうして自身の紅花仕事を振り返ると、染織の仕事は自然の営みとともにあり、季節が変わるごとに作業が変わり、そしてそのたびに、暦が移り変わっていることを体感しています。
昨年は、未曽有のウイルス流行があり、さまざまな制約とともに、私たちの生活の様も大きく変わりました。オンラインシステムを通して、会議や打ち合わせをしたり、はじめましてのごあいさつをすることも少なくありませんでした。パソコンやスマートフォンなどのフィルターを通して色の美しさが本当に伝わっているのか、その反応も直接お目にかかることが叶わない中、行間をさらに読み込まないといけないような時を過ごしました。 そんな中、工房や住まいの近くを散歩すると、春にはサクラが咲き、ヤナギの葉はゆらゆら揺れ、季節が進むと山の色は美しい緑をたたえ、川辺にはセンダンの花が咲いていました。コロナ禍は先が見えず、まるで色彩を失っているかのようでしたが、外に出ると自然の姿はそんなことがまるで気にならないかのようです。いつもの春を迎え、いつもの暑い夏が過ぎ、気が付くと寒い冬を過ごしています。そんな自然の変わらない姿を改めて見つめ直し、自分の仕事と向き合う貴重な機会となりました。
一昨年亡くなった父・吉岡幸雄は、いにしえの技術を研究し、また自然の映し出す色を手本とした染織家でありました。今月、その仕事を振り返る展覧会を初めて開催します。父の生み出した美しい色を、沢山の方にご覧いただければ幸いでございます。

◉よしおか・さらさ
1977年生まれ。染司(そめつかさ)よしおか6代目。アパレルデザイン会社などを経て2008年、実家へ。天然染料で古代の色を研究・染織している。一昨年亡くなった先代・吉岡幸雄氏の回顧展「日本の色―吉岡幸雄の仕事と蒐集」が1月5日より、細見美術館で開催される。