賛同企業代表者 文化人 対談シリーズ
経済面コラム

次世代へ、美しい日本を

Beautiful Japan. To the next generation

- 2021元日 文化人メッセージ -

宮永愛子

私たちはしなやかで強靭な
「なやんでるたーるじん」

宮永愛子
現代美術家

今年はどんな一年になるのでしょう。昨年は世界中でウイルスが猛威を振るい、誰もが体験したことのない時間を送ることとなりました。緊急事態宣言の春、誰にも会わず時折インターネットでのみ外部と交信するのは、家族だけで宇宙船にでも乗っているような毎日でした。庭先までの宇宙旅行は、母親として家族とゆっくり過ごすまたとない時間になり、作家としては何を作りたいか、何に向き合いたいかを改めて考える貴重な発酵タイムとなりました。
それから半年以上がたち、深刻な状況は今も変わりませんが、当時とは違った時間が流れているとも感じています。生活様式が少しずつ変化し、延期になった展覧会も新しいかたちでの実施が決まるなど、いろいろなことが動き出しています。
常温で昇華し形を変える素材を扱ったり、川から塩を採取したりする私の作品は、「日本的で儚い」とよく言われます。しかし自分では、日本的にと意識して制作したことはありません。日本で呼吸し、大地を踏みしめ、四季を感じて育ったことで、自然と今のまなざしが身に付いたのかもしれません。儚いという言葉は一見、弱々しく脆い印象ですが、私はこんな風に捉えています。
儚いということは、変化することができるという柔軟さであり、しなやかさであると。よくよく世界を俯瞰して、あるいはミクロな視点で眺めてみると、全てのものは変わりながらあり続けています。そしてそんなしなやかさや強靭さが、私たち自身にも自然と備わっているのではないか、と思うのです。 「人間はみんな、むかしは『なやんでるたーるじん』だったんでしょ?」
昨年春、日々深刻さを増す状況に暗い気持ちになっていた私に、4歳の娘が掛けてきた言葉です。思わず笑みがこぼれ、自然と気持ちがほぐれました。美術の仕事は、いつの間にかガチガチにとらわれてしまった常識やものごとの偏見から、意識や心をふわっと解き放つことでもあります。
今年はどんな一年になるのでしょう。どんな時も、自分が今立っている場所に耳を澄ますことのできる心を持つこと。家族に助けられながら、まなざし豊かに、大いになやんでるたーるじんでいようと心に誓っています。

◉みやなが・あいこ
1974年京都市生まれ。2008年東京芸術大大学院修了。日用品をナフタリンでかたどったオブジェや塩、陶器の貫入(かんにゅう)音や葉脈を使ったインスタレーションなど、気配の痕跡を用いて時を視覚化する作品で注目される。国立国際美術館(12年)、高松市美術館(19年)などで個展開催。京都美術文化賞(20年)など受賞歴多数。

「夜に降る景色−時計−」(2010年 撮影:宮島 径)