賛同企業代表者 文化人 対談シリーズ
経済面コラム

次世代へ、美しい日本を

Beautiful Japan. To the next generation

- 2021元日 文化人メッセージ -

前田展広

人が本来持つ個性が発揮される
状況を、つくり合うこと

前田展広
事業共創コーディネーター
プロデューサー

同世代や下の世代を中心に、社会課題の解決を目的としたビジネスをつくる⼈が周りにたくさんいる。彼らの動きは、50年後、京都の新しい⽂化になるかもしれない。私の一番の関⼼は「人が本来持っている個性が、十分に発揮される状況をつくること」にある。20年以上、その実践を仕事にしてきた。社会課題解決に取り組むことが増えたのは、さまざまな課題が、人がその人らしく存在することを阻害するからだ。SDGs(持続可能な開発目標)をきっかけに、企業だけでなく個人も在り⽅を問われる時代になった。全体最適や利益、効率など、従来のフレームによる議論では立ち行かない状況が増えてきた。そこに、対話や共創の可能性が生まれている。
京都市ソーシャルイノベーション研究所(SILK)は、社会課題と向き合う事業者を「クラスター化」させる、珍しい産業⽀援機関だ。課題解決を目指すだけでなく、「課題を生まないビジネス」を問いかけ、取り組みを全国へと広げている。千年続く都市、京都。その持続可能性に世界が注⽬する日は、そう遠くないように思う。
異なるセクター同⼠の議論の場や、市⺠との共創の場に⽴ち会うことも多くなった。今、⼤きなうねりとなっている「U35—KYOTO」もその一つだ。2021年から5年間の都市経営の基本となる「京都市基本計画」を起点に35歳以下の多様なプレイヤーが対話し、これからの京都を描いていく事業である。約100⼈が集い、30個のプロジェクトが⽣まれた。共創の輪には彼らを応援する企業も加わっている。組織のしがらみに縛られず、現状を⾏政や他者のせいにすることもなく、軽々と議論を進めていくメンバーたち。さまざまな課題が柔らかくほぐされていくような感覚になる。彼らは共感⼒が⾼く、所有欲がない。「こうあるべきだ」という怒りのエネルギーで動いていない。優劣や善悪を評価せずに違いを受け⼊れ、個々ができることで貢献し合う空気が⼼地良い。
どんな世界を望み、何を幸せと感じて生きるのか。世界中の全ての⼈がありのままの⾃分で社会に貢献できるなら、それほど素晴らしいことはない。私自身を振り返ると、⾃ら定めたルールに縛られ⼼が落ち着かない時期もあった。今も怒っている⼈は苦⼿だし、頭の良い⼈へのコンプレックスもある。さまざまな出会いから学んだのは、堅く握った手を開き、たまった何かを手放すことの大切さだった。両手を空っぽにして、新しい年を迎えたい。私は今、とても幸せである。

◉まえだ・のぶひろ
1977年京都市生まれ。地域企業のCSR室長を経て、2015年より個人事務所を設立し京都市ソーシャルイノベーション研究所(SILK)に参画。「東アジア文化都市2017共同企画事業PLAYON,KYOTO」「京都市基本計画市民参加事業U35-KYOTO」ほか、社会課題をビジネスで解決する事業の共創的生態系を広げている。

京都市基本計画市民参加事業U35-KYOTO(写真=其田有輝也)